「かえりみる」には「省みる」と「顧みる」があります

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「かえりみる」の2つの表記

「かえりみる」には「省みる」と「顧みる」があります。どちらを使うべきか迷ったことはありませんか? 念のためここでそれぞれの使い方について確認してみましょう。

まず、送りがなについてですが、「省みる」も「顧みる」も、送りがなは「みる」です。「省る」や「顧る」ではありません。パソコンで入力する場合は正しい候補が示されますが、紙に書く場合は注意してくださいね。

「省みる」も「顧みる」も、どちらも「振り返る」ことです。でも、振り返るといっても、単に「①後ろを見る」という意味もありますし、「②過去を思い出す」ことも振り返りですし、「③自分の言動を反省する」のも振り返りですよね。

このうち、①と②は「顧みる」で、③が「省みる」です。さて、それぞれ詳しく見ていくことにしましょう。

「省みる」とはどういう意味?

「省みる」というのは、「省」の文字どおり「反省」することです。自分の行いを振り返って、何が良くて何が悪かったのか考えることが「省みる」です。

・どうして遅刻するのか、自分の生活をきちんと省みなさい。
・自分の行いを省みれば、至らなさばかりで情けなくなる。
・お客さんとの会話を省みることで、改善点が見えてきた。

「省みる」は英語ではリフレクト(reflect)です。教育や看護の分野では、よく「リフレクション(reflection)という言葉が用いられます。かつては指導することが教育だと考えられてきたわけですが、だんだんと自分で気づくことが大切だというように変わってきたんですね。それだけ「省みる」というのは大切な態度なんですね。

「顧みる」はどういう意味?

「顧みる」は、「顧」の文字どおり「回顧」することの意味で、過ぎ去ったことを思い起こして振り返ることです。また、体の動きとして、後ろを振り向くことも「顧みる」と表現できます。

・自分の人生を顧みれば、平凡だったが満足のいくものだった。
・卒業アルバムを見ながら、しばらく当時のことを顧みた。
・ふと顧みれば、弟がもの言いたげに立っていた。(振り向く)

「顧みる」は、英語でいえばルックバック(look back)ですね。空間的に後ろを振り返ることも、時間的に振り返ることも、どちらも「顧みる」です。

「顧みる」がlook backで、「省みる」がreflectね。イメージがつかめたかも。

「顧みない」ってどういう意味?

「顧みる」を「顧みない」と否定形にすると、「気にしない」「心に留めない」という意味になります。「むこうみず」が意味として近いかもしれません。

・彼は危険を顧みずに救助に向かった。
・この土地で大きな災害があったことなど誰も顧みなくなった。
・ご迷惑を顧みずにお願いばかりで申し訳ありません。

「顧」は「気にかける」という意味があります。「顧問」の先生は、気にかけて相談に応じてくれる先生ですし、「顧客」というのは、ひいきにしてくれるお客さんのことです。ですから「顧みない」というと「気にかけない」の意味になるんですね。

「三顧の礼」ってどんな礼のこと?

「三顧の礼」というのは耳にしたことがあるかと思います。文字だけ見ると「3回お礼をすること?」と思いますよね。「顧」には「思いをかける」という意味があると書きましたが、「三顧」とはどんな意味なのでしょうか。

これは中国の故事に由来していて、「高い立場にある人が、自分より位の低い者に対して、礼を尽くして仕事を頼むこと」という意味なんですね。単に「三顧」といったり、「三顧の礼を尽くす」という表現をしたりもします。

ポイントは、身分の高い人が格下の者に対して礼を尽くすことなので、どんなに丁寧にお願いしたとしても、目上の人に対してなら「三顧の礼」にはなりません。語源となっているのは次のようなエピソードです。

三国時代の中国に蜀(しょく)という国があり、その国の劉備(りゅうび)という人物が、諸葛孔明(しょかつこうめい)の軍師としての腕を高く評価し、孔明の草庵を三度も訪ねて、ようやく軍師を引き受けてもらった。

草庵というのは粗末で小さい小屋のことですね。『三国志』は有名ですし、その中でも軍師・諸葛孔明は人気があります。以前、『パリピ孔明』というアニメが人気を博しましたので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。あれほどの才覚があれば、なるほど「三顧の礼」を尽くして迎え入れられたというのも納得できるというものですね。

『パリピ孔明』の孔明が「三顧の礼」の語源になった人だなんて、インパクトが強いから僕でも忘れないと思う。