はじめに
「いく」という表記ですが、「離れる/移動する/進む」という意味であれば「行く」と書きますよね。いまさら何を言っているんだと思われるかもしれませんが、漢字で書かずに、あえて「いく」とひらがなで表記する場合も実はたくさんあるんですね。「満足のいく結果だった」「簡単にいったね」「この仕事で生きていく」などの場合です。
これらの使い分けにはポイントがあります。そこで今回は、「行く」と漢字にする場合と、「いく」とひらがなにする場合の使い分けのルールについて確認しておきたいと思います。
「行く」と漢字で書くもの:モノやヒトが移動する
「進む」や「移動する」という意味の場合の「行く」は漢字で書きます。これは言うまでもないことですが、比較のために挙げておくことにします。「モノ」が移動する場合にはひらがなも好まれますが、基本的には漢字にして問題ありません。
・あっちに行ってくれよ。
・通りを行く人たちで混雑していた。
・図書館に行けば調べられるよ。
・車ならこの道を行けばいいんだね。
・僕の妹は小学校に行っています。
・通知が行っていると思います。
「いく」とひらがなにするもの①(モノやヒトが移動しない)
一方で、「いく」とひらがなで書くのは、実際に「モノ」や「ヒト」が移動しているわけではなく、時間や心情・決意、状態などを言い表している場合です。
(年齢を重ねる 成長する)
・年のいった人たちばかりが集まっていました。
・年いかぬ子にそんなことをさせる気か。
(状態が達する 満たされる)
・満足のいく結果になったのはよかった。
・まだ私は納得がいっていません。
(物事が行われる)
・この手でいこうと思うんだけど、どうかな。
・そう簡単にはいかないよ。
「いく」とひらがなで書くもの②(補助動詞としての「いく」)
「いく」は、別の動詞にくっついて補助的な働きをすることがあります。これを補助動詞といいますが、補助的な使い方の場合には「いく」とひらがなにするんですね。「て」に続くことがほとんどで、「~ていく」というように用いられます。
・生きていくのは大変だ。
・これから年老いていくばかりだな。
・おいしそうだから買っていこうよ。
・荒波を乗り越えて船は進んでいった。
・うるさいな。もう出ていってくれよ。
・約束の品物を持っていくね。
・彼はみるみる元気になっていった。
「~ていく」は必ずしも補助動詞ではありません。
補助動詞はひらがなにすると書きましたが、「~ていく」の形が必ずしも補助動詞とは限りません。
A:あした、どうやって行くつもり?
B:僕は自転車で行くよ。
C:私は歩いて行く予定です。
このように、「どうやって行く」や「歩いて行く」というのは「手段」を示していますので、「行く」は動詞になります。
A:あした、何を着ていくつもり?
B:僕は運動着で行くよ。
C:私は制服を着ていく予定です。
これらは、「着る」を補助するはたらきの「いく」ですからひらがなにします。
違いは「直前の動詞を補助」しているかどうかですね。このように、「いく」が補助動詞かどうかは少し注意が必要です。
「ゆく」の場合はどう書けばいいの?
「行く」の文語的な表現に「ゆく」があります。「ゆく秋」や「ゆく年」などの場合です。「行く秋」でも「行く年」でもいいのですが、それだと「いく」とも読めてしまいますので、「ゆ」と読んでほしい場合はひらがなで「ゆ」としてください。風情がある響きですよね。「ゆくゆくは~」もひらがなにします。
・去りゆく人々
・暮れゆく町並み
・更けゆく秋の夜
・心ゆくまで
「いく」には「逝く」もあります
「逝く」というのは逝去する意味ですね。「祖父が逝きました」のように用います。
そのほかに「逝く」は、戻ってこないものを惜しむ気持ちを込めて「逝く秋」「逝く春」などと用いられることもあります。ただし、このような特殊な表現を除けば、「逝く」は人に対して用いるものですので、壊れたり使いものにならなくなったという意味であればひらがなのほうが適切ではないかと思います。
・事故でせっかくの新車がいっちゃったよ。
・長年愛用していた機械がとうとういってしまった。
まとめ
・「行く」と漢字で書くのはモノやヒトが移動する場合です。
・「いく」とひらがなにするものモノやヒトが移動しない場合です。
・補助動詞の「いく」はひらがなにします。(生きていく/買っていく)
・文語的な表現の「ゆく」は、そのまま「ゆく」と書きます。
・逝去する意味の「逝く」は主にヒトに対して用います。
今回は、「行く」と「いく」の使い分けについてまとめてみました。基本的なことばかりで恐縮ですが、なにがしかお役に立てれば幸いです。最後まで読んでくださってありがとうございました。