「頂く」と「いただく」の使い分けを確認しましょう
「いただく」の表記ですが、「頂く」と漢字にする場合と、「いただく」とひながなにする場合があります。漢字で書くのは「雪を頂く山」や「頂き物」などの場合で、「いただく」とひがなにするのは「食べる」の謙譲表現のほか、「来ていただく」など、主に補助動詞の場合です。
①上にのせているのは「頂く」(※雪を頂く)
②具体的なものをもらうの謙譲語は「頂く」(※謝礼を頂く)
③「食べる・飲む」の謙譲語は「いただく」(※朝食をいただく)
④「~ていただく」の形で用いる場合は「いただく」(※来ていただく)
ただ、簡単なようで迷う場合がありますので、それぞれ詳細に確認しておきたいと思います。
「頂く」と漢字にする場合①「上のせる」のは「頂く」
まず、「頭の上にのせる」や「上にある」という意味で用いる場合は「頂く」と漢字にします。偉い人を上に据えて、敬い仕える場合も「頂く」を使います。ただし、「山のいただき」、つまり山頂の場合は「頂」とします。この場合は送りがなは用いないので、区別してくださいね。
・満天の星を頂く夜空は見事だろうな。
・西日を頂く夕暮れの情景が私は好きだ。
・本会は大学の名誉教授を会長に頂く組織である。

「山の頂き」ではなく「山の頂」なのね。
「頂く」と漢字にする場合②「もらう」の謙譲語
「頂く」は「もらう」の謙譲語としても用いられますが、この場合は「頂く」と漢字で書きます。「頂く」は日常の中でも使い慣れている表現だと思います。
「頂戴」という言葉があるように、「頂」も「戴」も似た意味ですが、常用漢字表には「戴」は「タイ」の読みしかないので「頂く」を用います。どうしても「戴く」を用いたい場合はルビやふりがなを用いるなど工夫してください。
・おいしい銘菓をおみやげに頂いた。
・頂いたご助言が身にしみました。
・初めて給料を頂けたのでうれしい。
・緑綬褒章を頂き、感無量でございます。
※緑綬褒章を戴(いただ)き、感無量でございます。

「戴く」ってこれまであまり見たことなかったな。
「いただく」とひらがなにする場合① 「食べる」の謙譲語・丁寧語
同じ謙譲語ではありますが、「食べる(飲む)」の謙譲語・丁寧語としての「いただく」はひらがなで書きます。「いただきます」というあいさつもひらがなですね。「お風呂に入る」も、丁寧な言い方をすると「お風呂をいただく」になります。
・おなかいっぱいいただいて満足です。
・お風呂、お先にいただきました。
・おいしそう。いただきます!
・地元の銘酒をいただかないわけにはいかないよ。
○どうして「食べる」の謙譲語・丁寧語はひらがなで書くの?
このように、「食べる」の謙譲語はひらがなにすると明確に言及しているのは新聞・マスコミ表記です。公用文の解説書では「食べる」の謙譲語を「頂く」にしているものもありました。ですから、公用文の立場であれば、食べる意味であっても「頂く」と書いてもいいかもしれません。
ただ、「もらう」の謙譲語と「食べる」の謙譲語・丁寧語の両方を「頂く」にすると、どちらの意味なのかわかりにくくなってしまいます。漢字とひらがなで書き分ければ、「お酒を頂いた」は「お酒をもらった」、「お酒をいただいた」は「お酒を飲んだ」というように違いが理解できます。もちろん、絶対にそうでなければならないということではありませんので、それぞれふさわしい表記を用いてくださいね。

言われてみれば、「お野菜を頂く」だと、野菜をもらった意味に感じるわね。
「いただく」とひらがなにする場合② 「補助動詞」の「いただく」
「いただく」は、別の動詞にくっついて補助的な働きをすることがあります。これを補助動詞といいます。補助動詞の場合は「いただく」とひらがなにします。「て」に続くことが多く、「~ていただく」というように用いられます。
・こちらに座っていただけますか。
・彼には親切にしていただいた。
・出席していただくことは可能でしょうか。
・有名な先生に教えていただけることになった。
「ご(お)~いただく」の形で用いられる謙譲表現について
あらたまった場においては、「ご助言いただきありがとうございます」や「ご提案いただいた件ですが」のような表現がよく使われますよね。これは、自分のために何かしてもらうことの謙譲表現で、「ご(お)~いただく」の形で用いられます。
「助言」や「提案」というものは「する」ものですので、「助言していただきありがとうございます」というところですが、「ご」や「お」が入って、「して」や「て」が抜けたんですね。ですので、「いただく」は補助動詞になりますのでひらがなで書きます。
・ご手配いただく (手配してもらう)
・ご心配いただく (心配してもらう)
・ご提案いただく (提案してもらう)
J
・お褒めいただく (褒めてもらう)
・お招きいただく (招いてもらう)
・お知らせいただく(知らせてもらう)
・お掛けいただく (掛けていただく)
否定形の「いただけない」もひらがなにしましょう
「いただく」を否定形で「いただけない」として、「感心しない」「評価できない」という意味で用いたりもします。「その案はいただけない」などの場合ですね。このように、本来の意味とは異なった用い方の場合にはひらがなで「いただけない」とひらがなで表記してください。
・収益は上がっても、やり方がいただけない。
・いくら不満があるからって、その言い方はいただけない。
否定的な意味合いで用いる際にひらがなにする表記はほかにもあります。例えば「悪事をはたらく」とか「息子をかたる詐欺」などの場合です。これらは漢字の持つ本来の意味から離れてしまっているためにひらがなで表記するんですね。

「いただく」っていろんな使い方があって、ちょっと勉強になった気がする。
まとめ
「モノ」であれば「頂く」でよいのですが、「努力いただきたい」など、モノではない場合は「して」が隠れていないかどうかが補助動詞かどうかの判断のポイントですね。あまり神経質になる必要はないかもしれませが、一応の判断基準を押さえておくと迷わなくなるのではないかと思います。