キリンは空想上の動物だった?
キリンというのはあの首の長い動物、英語でいえば「giraffe(ジラフ)」のことですが、漢字では「麒麟(きりん)」が当てはめられていますよね。「麒麟」といえば、キリンビールのラベルを思い浮かべる方もいらっしゃるかと思いますが、あのラベルに描いてある不思議な生き物こそが「麒麟」なんです。では、なぜ「ジラフ」が「キリン」になったのでしょうか。
中国には、幸運の兆しとして現れる「瑞獣(ずいじゅう)」という伝説の生き物たちがいて、なかでも「麒麟(きりん)・鳳凰(ほうおう)・霊亀(れいき)・応竜(おうりゅう)」の4体は『四霊(しれい)』と呼ばれ、特別な崇拝を集めてきました。特に「麒麟」は、「すぐれた王が即位し、天下が平和に治まっている時にだけ現れる」という伝説があるんです。
そこで、明の時代の永楽帝(えいらくてい)という皇帝が、家臣がアフリカから連れ帰ったこの未知の動物を見るやいなや、「これこそが伝説の麒麟だ!」と宣言しました。きっと「私の治世は、伝説の麒麟が現れるほどすばらしい時代なのだ!」と知らしめたかったのでしょう。つまりプロパガンダに利用したんですね。それでジラフは麒麟になりました。
その後、中国では伝説の「麒麟」と「ジラフ」を区別して、「ジラフ」を長頸鹿(チャンジンルー)と呼ぶようになったのですが、伝わってきた側の日本と韓国では「キリン」という呼称をそのまま使い続けています。こんなふうに、発祥の地が名前を変え、周辺国に古い名が残るという、面白い逆転現象が起きているんですね。
次は、鳴き声のイメージから慣用表現が生まれた例を見ていきましょう。
「閑古鳥が鳴く」のは「カッコウ鳥が鳴く」という意味だった
お店がさっぱりはやらずに、さびれているさまを「閑古鳥が鳴く」といいますよね。この「閑古鳥」とはどんな鳥なんでしょうか。九官鳥みたいな鳥なんでしょうかね。
実は「閑古鳥」は「カッコウ」のことなんです。「カッコウと鳴く鳥」、つまり「カッコウ鳥」から「閑古鳥」とも呼ばれるようになったと考えられています。
どうしてさびれている様子に「カッコウ」が用いられるようになったのかというと、「カッコウ」という鳴き声はどことなく寂しくて、人がいない山の中の情景を思い起こさせることから、「閑古鳥が鳴く」と表現されるようになったようです。
同じカッコウ目・カッコウ科で、見た目もカッコウによく似ているホトトギスのほうは、夏の風物詩として和歌などにもうたわれて風情がある鳥になっていますよね。「鳴かぬなら鳴くまで待とう時鳥(ほととぎす)」や「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」は有名ですし、清少納言も「ほととぎすが夜中にひっそりと鳴く一声が最高に風流なのよね~」とか言っています。
それに対してカッコウはほとんど取り上げられていません。やはり、悲しい鳴き声が邪魔をしてしまったのでしょうか。
しかし、カッコウに起死回生の時がやってきます。そうです。みなさんもよく聞いていると思いますが、視覚障害者のための「音響式信号機」にカッコウの鳴き声が採用されたんです。
「カッコウ」と「ピヨピヨ」の組み合わせになっているところが多いと思いますが、「カッコウ」のほうが交通量の多い道路(主に東西)を渡るときに流れます。これで見事に汚名返上ですね!
こうして、寂しさの象徴だった鳴き声が、現代では「安全に渡れる音」に生まれ変わったのでした。山のカッコウもきっと喜んでいることでしょう。
最後は、なんと誤植が正式名称になった例をご紹介したいと思います。
ゴキブリは誤植から生まれた名前だった
ゴキブリというと嫌われる昆虫ナンバーワンかもしれませんね。あまり遭遇したくないものですが、口にするのもおぞましいということで、「G」の代名詞が広がっているようです。
実はこのゴキブリ、もともとは「ゴキカブリ」という名前だったんです。「ゴキカブリ」というのは「御器噛り」と書いて、「御器(おわんなどの食器)」を「かぶる(かじる)」という意味です。まさに名は体を表していたというわけです。
ところが、明治22年に発行された『中外英和辞典』において、Cockroach(コックローチ)の訳語として「ゴキカブリ」とすべきところ、「カ」が抜けてしまったものを、誤植に気づかずそのまま「ゴキブリ」と掲載されてしまったようです。
その後、この辞書が広く普及したため、「ゴキブリ」という呼び方が一般的になり、そのまま標準語として定着してしまったんですね。ちなみに、この辞典ができる以前の古い書物では「ゴキカブリ」と表記されているんだそうですよ。
日本の在来種のヤマトゴキブリがいますが、主に外で活動するので密閉空間にはあまり入ってきません。屋内に出没するゴキブリの多くは外来種です。日本全国に生息するゴキブリのうち、黒光りして大きいのはクロゴキブリですね。江戸時代中期に海外からの輸送物資に紛れて侵入してしまったようです。
まとめ
今回は、正式なものとは違った名前が定着した例についてまとめてみました。ほかにもあって、例えば、中国ではもとはミミズのことを「土竜」をと言っていたそうですが、それが日本に入ってきたときに、土の中にいる竜なら「モグラ」だろうということで、「土竜」は「モグラ」になりました。こんなふうに、勝手な解釈が定着してしまったものもあります。
一般に広がってしまえば訂正するには骨が折れますので、逆にそれを正式名称としてしまったんですね。それは一見、言葉の乱れのように見えますが、私たちが用いる言葉は、時として正しさよりも日常的に使っている親和性が優先させるのかもしれません。
最後まで読んでくださってありがとうございました!


