はじめに
「黒」というと、「黒幕」とか「腹黒い」とか「黒歴史」とか、なんだか悪いイメージがつきまといますよね。でも、それだけではなくて、黒光りしている「黒ダイヤ」や天然の「黒真珠」などは貴重がられますし、正装といえば日本も西洋も黒い衣装を身につけます。
このように、喜びも悲しみも飲み込んでしまうような圧倒的な力を持つ「黒」ですが、今回は、「黒」の語源や正装としての意味、さらに「黒幕」という言葉の意外なルーツや「セピア色」の正体まで、「黒」にまつわる物語をひもといてみたいと思います。
「黒」の語源は「暗(くら)」だった
「黒」は「暗(くら)し」が転じて「黒(くろ)」になったとされています。これは「明(あか)し」から「赤」が生まれたのと同じですね。もともとは色というよりも、「何も見えない闇そのもの」を指す言葉でした。
黒=「暗(くら)し」
赤=「明(あか)し」
日中は色とりどりに見えていた世界も、日が沈めばすべてが闇に包まれます。そこに現れるのが「黒」であり、私たちの感覚の中に根源的に存在する色なんですね。
なぜ慶弔のどちらにも「黒」が用いられるのか
正装といえば、まず、黒を思い浮かべるのではないでしょうか。入学式や式典では黒いスーツが定番です。黒がフォーマルな色として定着した背景には、ヨーロッパ文化の影響があるんですね。
中世から近世のヨーロッパの染色技術では、深くて均一な黒を染めることは非常に難しく、何度も染めなければなりませんでした。そのため「黒=高級品」という価値観が生まれ、やがて上流階級の色として定着します。さらに19世紀になると、過度な装飾よりもシンプルで洗練された黒が品格のある色として評価されるようになりました。
日本では、古くは喪服は白でしたが、明治時代以降、西洋文化の影響により黒が定着し、現在では、洋装では黒のスーツ、和装では黒紋付が格式ある正装とされています。
黒が慶弔の両方に用いられるのは、「感情を抑え、その場にふさわしく振る舞う」という役割が共通しているためだと考えられます。
「黒幕(くろまく)」は歌舞伎の言葉
現代においては、「黒幕」は「裏で事件を操る怪しい人物」という意味で使われますが、ルーツは日本の伝統芸能の歌舞伎です。
歌舞伎の舞台では、黒い布は「無(=何もない)」を表します。舞台上では黒い幕を引いて場面転換をしたり、黒子(黒衣)がそろそろと動いたりしますが、それらは見えていたとしても「見えていない」という約束事になっていますよね。あの黒い幕そのものが「黒幕」です。
そこから転じて、表舞台には出ず、黒い幕の後ろから指示を出す人、つまりは「陰の権力者」のことを「黒幕」と呼ぶようになりました。
「セピア色」の正体はイカだった
「黒」に関連して、古い写真のような哀愁のある色として用いられる「セピア色」についても触れてみましょう。
「セピア(sepia)」はラテン語でコウイカを意味しますので、もともとはイカの名前なんです。かつてはイカ墨から作った褐色のインクを「セピアインク」と呼んでいたんですね。
このインクで描かれた絵や文字は、時間の経過とともに色あせ、独特の温かみのある茶褐色になります。そのため、古い写真の色合いを「セピア色」と呼ぶようになりました。
日本語に直せば「イカ墨色」ですが、「セピア」という響きにはどこか郷愁や詩的な雰囲気がありますね。
きれいすぎて黒く見える「黒潮」
「黒潮」と「親潮」は、まったく異なる性質を持つ海流ですが、どうしてそんな名前が付いたのでしょうか。
黒潮は暖かく、透明度の高い海流です。海水中の不純物が少ないため、太陽光は水の奥深くまで届くんですね。その過程で赤い光は吸収され、青い光だけが残ることで、海は深い青や藍色に見えることから「黒潮」と呼ばれるようになりました。きれいなほど黒に近く見えるのがちょっと不思議ですね。
一方の親潮は冷たく、栄養に富んだ海流です。プランクトンが豊富に存在し、それらが光を散乱させるため、海はやや白っぽく濁った青緑色に見えます。そのため、魚を育む「親」のような流れとして「親潮」と呼ばれてるようになりました。
まとめ
「黒」という言葉は、もともとは暗闇そのものを表す言葉でした。しかし、それは単なる「暗さ」ではなく、文化や歴史の中で多様な意味を持つ色へと広がっていきました。
「黒幕」や「黒歴史」といった負のイメージだけでなく、気品や格式を象徴する色としての一面も持つ「黒」、その奥深さこそが、この色の本質なのかもしれませんね。
最後までお読みいただきありがとうございました。





