はじめに
「重きを置く」という表現はよく使いますよね。例えば、「人との信頼関係に重きを置くべきだ」とか、「この会社は品質に重きを置いている」などと使います。
・結果より過程に重きを置くべきだ。
・この会社は品質に重きを置いている。
でも、「重き」ってちょっと落ち着きが悪いような気がしませんか? そもそも「き」とはどういう意味なんでしょうか。
どうやら、この「重き」は、昔の日本語の形がそのまま残ったもののようです。今回は「重きを置く」の「重き」を深掘りしてみたいと思います。
「重きを置く」とはどういう意味?
まず、確認のために「重きを置く」の意味を押さえておきたいと思います。
重きを置く=あることを特に大切だと考える
「重きを置く」とは「あることを特に大切だと考える」という意味で、「知識より経験に重きを置く」とか、「実績に重きを置いて決定する」というように用います。「重点を置く」に言い換えることもできますね。
「重き」の「き」は古い日本語の形
なぜ「重い」ではなく「重き」なのかというと、昔の日本語の形容詞は今とは少し違っていて、それが残った形だからなんです。
かつて、形容詞は「美しき」や「長き」や「古き」という形で、そのあとの名詞を説明していました。すなわち「美しき花」「長き道」「古き家」というように用いていたわけです。
それが、やがて「美しい花」「長い道」「古い家」というように「き」は「い」に統一されていったんですね。
・美しき花→美しい花
・長き道→長い道
・古き家→古い家
これと同じことが「重き」にも当てはまります。現在では「重い」になりましたが、以前は「重き」だったものが、そのまま残っているというわけです。
「準体法(じゅんたいほう)」とは?
でも、「重き」で止まっているのはなぜでしょうか。「重き価値を置く」ならわかりますが、「重きを置く」というのはなんだか中途半端な言い方のように思いますよね。
それは、古い日本語においては、名詞がなくても、「重き」だけで「重いもの/重い価値」という名詞の代わりをしていたためです。これを「準体法(じゅんたいほう)」といいます。つまり、「重き」は「重いもの」の省略形というわけです。
わかりやすい例として、有名なあの言葉で考えてみましょう。
「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る」
この意味は「昔のことを知って新しいことを考える」という意味ですよね。「故き」だけで「昔のこと」という意味ですし、「新しき」だけで「新しいこと」という意味です。
これと同じように「重き」だけで「重いこと」とか「重い価値」という名詞の役割を果たしているんですね。そのため、わざわざ「こと」や「もの」と言わなくても、「重き」の一言に意味がギュッと凝縮されているわけです。
なぜ古語の「重き」だけ現代まで残ったの?
古語の形で残っているものには、「重き」のほかには「古き」や「良き」や「若き」がありますよね。「古き良き時代」や「若き日の思い出」などはときどき目にするのではないかと思います。
・古き良き時代
・若き日の思い出
どうして古語が残ったかというと、その言い方が慣用句として定着したからです。つまり、決まった言い回しであるために、まるごと「そういう表現」として使われてきたんですね。
言葉はみんなが使うほど強固になって変化しにくくなります。それで「重きを置く」は、文法が変わった現代でも、化石のようにそのまま残ったようです。
「重き」と「重点」はどこが違うの?
「重きを置く」は「重点を置く」とほぼ同様の意味になりますが、ニュアンスは少し違います。
「重点」は中国由来の漢語で、「大切なポイント」という意味ですね。「重点項目」とか「重点政策」のように、実務的・具体的な場面で使われることが多い言葉です。
一方、「重き」というのは、日本生まれの「和語」で、価値観や感覚を表しやすいのが特徴です。「重点」と意味が大きく違うわけではありませんが、抽象的だったり価値観に関わる場合は「重き」が好まれるようです。
・結果より過程に重点を置きましょう。(事務的)
・結果より過程に重きを置きましょう。(情緒的)
まとめ
いかがでしたでしょうか。「重き」はどこか古風で、精神的な重みが加わるような気もしますよね。もちろん「重点を置く」にしても問題ありませんが、「重きを置く」には特別な響きがあるからこそ、私たちはこの古い形を大切に使い続けてきたのかもしれません。
最後まで読んでくださってありがとうございました!


