「士」と「師」はどう違うの?/「士業」と「師業」ほか多様な職業まとめ

気になることば

「士業」や「師業」は職業分類ではない?

「士業」という語を聞いたことがあるかもしれません。「弁護士」や「税理士」のように「士」が付く仕事のことを「士業」と呼ぶことがあります。ただ、国語辞典を調べてみると、私が持っている7冊の辞書のうち、5冊には「士業」の見出しがありませんでしたので、「士業」は正式な職業の分類ということではなさそうです。

(「士業」の見出し「」)
『広辞苑』(第七版)
『岩波国語辞典』(第八版)
『新明解国語辞典』(第八版)
『現代国語例解辞典』(第五版)
『明鏡国語辞典』(第三版)

(「士業」の見出し「」)
『大辞林』(第八版)
『三省堂国語辞典』(第八版)
(語釈:弁護士・公認会計士・弁理士のように、士が付く職業)

一方、同じ「しぎょう」でも、「師業」というのは、どの国語辞典にも見出しがありませんでした。取り扱いがないんですね。「医師」や「看護師」は「師」が付く職業ですから「師業」もありそうですが、国語辞典に載っていないということは一般化されていないということですし、実際にほとんど使われていません。

「士業」は、いわば「開業医」のスタイルのこと

その理由を考えてみましょう。「士」が付く職業は、ほかにも「運転士」「消防士」「介護士」などたくさんありますが、「士業」のイメージは、やはり「弁護士」や「公認会計士」などです。それは、「士業」という語が、「資格を武器にして、主に自分の裁量で独立して事業を行う人たち」という文脈で用いられるためではないでしょうか。

「自分の裁量で独立して事業を行う人」というのは、一般には「個人事業主」と呼ばれます。「士業」も個人事業主ですが、一般の個人事業主と少し違うのは、国家資格を武器にしている点です。つまり、「個人事業主」というとあまりに庶民的になってしまうため、区別するために「士業」という言い方をするのではないかと思います。

もちろん、個人事業主の弁護士や会計士ばかりではなく、勤務弁護士も勤務会計士もいらっしゃいますが、要するに「士業」は職業の分類ではなく、働くスタイルを重視した言い方だと解釈できます。医師でいえば「開業医」に該当するのが「士業」ということなんですね。

「理容師」や「美容師」「柔道整復師」のように、「師」が付く職業の人が独立して事業を行う場合は「師業」ということになりますが、「士業」も「師業」も、一般的な職業のジャンル分けではないことは念頭に置いてみてください。

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「師」とはどういう意味?

では、「師」とはどういう意味なのでしょうか。漢和辞典を調べてみると、「師」は「学問や芸道を教える先生や師匠のこと」とありますが、もともとは「仏語や道を説いて弟子を導く僧侶のこと」を指していたようです。それがだんだんと技術や技芸を表す語に付いて、その道について深い知識や高度な技術を有している「スペシャリスト」に対して用いられてきました。

「師」を接尾辞として用いる職業は歴史が古いのが特徴です。「陰陽師」「蒔絵師」「猿楽師」「琵琶法師」などたくさんありますし、「祈祷師」も「師」ですね。「薬師」や「医師」はその流れでしょう。

「師」はよろしくない仕事にも用いられ、「詐欺師」「ペテン師」「地面師」などの語も生まれていますが、逆にいえば、それだけ「師」は「その道の専門家」という意味で広く一般化されているとも解釈できます。

「士」とはどういう意味?

一方で、「士」というのは、「官位・俸禄を有し、人民の上位にある者」のことだったそうです。官位・俸禄を有するということは、職務として任務にあたり、報酬として金品を得ることですから、「プロフェッショナル」の意味ですね。

また、「武士」の「士」であるように、「武道をもって主君に使える者」という意味もあったようです。「士」はそもそも男子のことで、「力士」「紳士」「兵士」などと用いますが、現在では「士」に「男子」の限定的な意味は消失しています。

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なぜ医療系には「師」が多いのか

「師」の付く職業は医療系に集中しています。これは、医師が「師」であることと無関係ではないでしょう。

病は神や霊のたたりや悪霊のしわざだと信じられていた頃、医師は祈祷師や呪術師でした。また、薬草が病に一定の効果があるとわかると薬師にもなりました。現代の「医師」という職業は、科学的な知識と医療制度の整備が進んだ近代以降に確立されたものといえますが、現在に至るまでの医師の仕事を振り返れば、「医師」はやはり「師」を用いるのが自然です。

すると、歯科医師も獣医師も「師」となり、お産婆さんは「助産師」になり、看護婦さんも「看護師」になりました。臨床検査技師や放射線技師も「師」の「技師」を用いています。ただし、「理学療法士」や「作業療法士」は「士」ですので、どこが「師」と「士」の境界線なのかわかりにくいところがあります。

医療分野以外にも「師」は用いますが、「牧師」や「調理師」など、やはり歴史のある職業ですし、死刑囚と対話をする「教誨師」という職業もあります。また、「絵師」や「振り付け師」のように芸術や芸能に関することにも「師」が用いられていることが多いようです。

「理容師」や「美容師」はなぜ「師」なのか

理容室の前に置かれている「赤・青・白」のサインポールは「動脈」と「静脈」と「包帯」を表しているというのは聞いたことがあるかもしれません。ですから、理容師や美容師が「師」になっているのは医療に関連しているからだと思いがちですが、日本においては直接的には関係ありません。

中世ヨーロッパには「床屋外科医」という職業があって、刃物を使った仕事をしていました。散髪したりひげを剃るだけでなく、傷を縫合したり切開して膿を出すなど、簡単な外科的な処置をしていたようです。高貴な方々は手が血で汚れるのを嫌ったため、もっぱら外科は床屋さんの仕事だったんですね。日本では、明治時代以降に西洋文化が入ってきた際にサインポールが取り入れられました。

ですから、理容師や美容師が「師」であることと医療との関連はなく、むしろ、古くから存在していた職業の名称としての「師」だと考えられます。舞妓さんの髪を結う「髪結い師」や、お相撲さんのまげを結う「床山」は伝統的な技能ですね。烏帽子をかぶらなくなってからの職業ではあるものの、昭和初期にパーマネントが流行すると「パーマ屋さん」と呼ばれたり、「床屋さん」という言い方は今でもしますが、髪に関する仕事の名称はさまざまあるようです。

学校の先生は、なぜ「教師」ではなく「教員」なのか

職業の分類に「教師」がありますが、「教師」というのは学校の先生だけでなく、塾の先生や家庭教師も含んでいますので、「ピアノ教師をしています」というように用いることが可能です。

学校の先生も「教師」には違いありませんが、「教員」を用います。「教員」は「学校の先生」という限定的な意味ですので、学校以外の先生を含みません。また、教員にも役割があって、児童・生徒に教える立場の者を「教諭」といいます。小学校なら「小学校教諭」、中学校なら「中学校教諭」ですが、やがて「教諭」ではなくなって、管理職の「教頭」や「校長」になったりもします。

大学も学校教育法上の「学校」ですので先生方は「教員」ですが、「教授」や「准教授」などの職位を用いることのほうが多いかもしれません。自分で名乗る場合は「大学で教員をしています」という言い方になります。

ただし、国家資格を有している「教師」があります。それが「日本語教師」です。これは、外国人に日本語を教える仕事をする人のことです。

「運転士」と「運転手」は何が違うのか

「運転士」と「運転手」は何が違うのかというと、主として「運転士」は列車や電車を運転する人に、「運転手」は自動車を運転する人に用いられることが多いようです。「ドライバー」のような言い方もされますが、これは自動車に限定されます。

船舶の場合は「航海士」になりますし、飛行機なら航空操縦士(パイロット)ですが、いずれも「士」を用います。

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どのような職業や資格があるのか

もちろん職業は「師」や「士」だけでなく、「員・者・家・人・官・職」などもありますし、最近のものだとカタカナの職種や資格も多くなっています。

員:訪問介護員 動物飼育員
者:電気主任技術者 危険物取扱者
家:音楽家 画家 陶芸家
人:調理人 集金人 管理人
官:自衛官 国税専門官 警察官
職:植木職 とび職

そこで、最後に、どのような職業や資格があるのかをまとめてみたいと思います。職業の種類は1万8,000以上ともいわれますし、「職業」と「資格」の区別もあいまいなところがありますが、どんな仕事に「士」や「師」があるのか確認してみてくださいね。もちろん、網羅しきれるものではありませんので代表的なものになりますのでご了承ください。

なお、分類については『仕事・資格 GUIDE BOOK 2026』(進路情報研究センター)を参考にさせていただきました。


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ゲームデザイナー
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航空整備士
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インテリアコーディネーター
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ドローン操縦士
CADデザイナー
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測量士
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■電気・化学・エネルギー関連 
ネットワーク接続技術者
電気工事士
電気主任技術者
危険物取扱者
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■音楽・芸能・演劇関連
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俳優
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振り付け師
ピアニスト
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PAエンジニア
ミキサー
マニピュレーター
イベントプランナー
コンサートスタッフ
照明スタッフ
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シナリオライター(脚本家)
映像・CMディレクター

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伝統工芸職人
CGデザイナー
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秘書
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弁理士
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社会保険労務士

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パン職人
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スポーツトレーナー
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薬剤師
看護師
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臨床検査技師
臨床工学技士
歯科技工士
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理学療法士
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言語療法士
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柔道整復師
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助産師
細胞検査士
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医療事務/医療秘書
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臨床心理士
社会福祉士
精神保健福祉士
介護福祉士
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■農業・バイオテクノロジー関連
フラワーデザイナー
クリーンコーディネーター
農業技術者
バイオ技術者
ビオトープ管理士

■動物医療・動物訓練関係
獣医師
愛玩動物看護師
トリマー
動物トレーナー/動物飼育員
警察犬訓練士

■幼児教育・教育関連
保育教諭
幼稚園教諭
小学校教諭
中学校教諭
高等学校教諭
養護教諭
特別支援学校教諭
保育士
栄養教諭
司書教諭
日本語教師

■公務員関連
国家公務員
地方公務員
自衛官
国税専門官
警察官
消防官

■その他
プロ棋士
騎手
ボートレーサー
競輪選手
マンション管理人
植木職人
とび職人
納棺師
僧侶
神主
牧師
神父
などなど

まとめ

ノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センは、福祉を測るには、所得や財産といった「資源」の多さではなく、その人が「実際に何ができ、何になることができるか」という「潜在能力」が重要であるといいました。

私たちが「こういう人になりたい」と思ったとき、その門戸がどのステージでも閉ざされていなければ、それはとてもよい社会であるといえます。裏返せば、勉強は大変かもしれませんが、そもそも勉強できない環境や制限が設けられている制度こそがつらく苦しいものだということなんですね。

選択を間違えてやり直そうと思ったとき、「今からでは遅い」のではなく、「今からでも間に合う」と思える社会はすばらしいと思います。自分の可能性に大いに期待して、迷わずチャレンジしてみてください。もちろん、資格取得が目的化してしまっては本末転倒ですので、大局を見きわめながら頑張ってくださいね。

今回は「士」と「師」の違いと、職業や資格の名称についてまとてみました。最後まで読んでくださってありがとうございました。

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