「けりをつける」の「けり」は「蹴り」じゃないならどういう意味?

気になることば

はじめに

本を読んだりアニメやドラマを見ていると、「けりをつける」とか「けりがつく」というワードによく遭遇しますが、この「けり」は、どうやら「蹴り」ではなさそうです。「蹴りをつける」とか「蹴りがつく」というのは表現として不自然ですからね。

では、もともと「けり」はどんな意味なんでしょうか。今回は「けりをつける」の語源について探っていきたいと思います。

「けりをつける」「けりがつく」とは?

まず、「けりをつける」の意味を確認しておきましょう。

「けり」とは、「けりがつく」または「けりをつける」の形で、「面倒なことを終わりにする」、あるいは「決着がつく」という意味で用いられます。

(用例)
・長年の懸案にようやくけりがついたよ。
・あの問題にそろそろけりをつけるべきだ。
・これから、あいつの家にけりをつけに行くつもりだ。

「けり」とは、文語助動詞の「けり」でした

この「けり」とは何なのかというと、文語助動詞の「けり」のことなんです。そうです。「昔、男ありけり」の「けり」です。

どういうことなのかというと、古文や和歌、俳句は、助動詞の「けり」で終わるものが多かったことから、「~けり」になると「ここで一文が終わりだな」と判断できたんですね。そのために、やがて「けり」自体が「結末」や「決着」の意味で用いられるようになったそうです。

「けりをつける」という言い回しは比較的新しく、近代になってから生まれたことばです。近代ですから明治以降ですね。そのころに古文や和歌を読んだ人が、文の最後にはどうも「けり」がつくことが多いと思ったのでしょう。それで「けりをつける/けりがつく」で「終わりにする/終わりになる」という意味になったようです。

ですから、「けりをつける」は、現代文に置き換えれば「ですをつける」や「ますをつける」という意味ですし、今は文末に句点を用いますから「まる(。)をつける」でもいいかもしれません。

「これからまるをつけに行く」というとちょっと迫力に欠けるかも。

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「けり」と「ケリ」、どっちがいいの?

では「けり」はひらがなにすべきでしょうか、カタカナがよいでしょうか。本来、「けり」というのは、助動詞の「けり」ですからひらがなで問題ないわけですが、もともとの意味と違う使われ方の場合にはカタカナにすることがあります。それで「ケリ」とカタカナになっていることが多いんですね。

これはどちらが正しいということではありませんが、読み手への配慮として「ケリ」とするのは有効なのではないかと思います。もちろん、どちらでも大丈夫です。

中世の文章にはどのくらい「けり」が用いられていたの?

文語の「けり」は「昔、そのようなことがあったなあ」と回想する場合に用いる助動詞です。「けり」というと真っ先に思い浮かぶのが『伊勢物語』の「昔、男ありけり」ですよね。どのくらいの頻度で「けり」が出てくるのか、ちょっと見てみることにしましょう。

『伊勢物語』(冒頭部分)

昔、男、初冠(ういこうぶり)して、平城の京、春日の里に、しるよしして、狩にいけり。その里に、いとなまめいたる女はらから住みけり。この男、垣間見てけり。思ほえず、ふるさとにいとはしたなくてありければ、心地惑ひにけり。

(現代語訳)昔、男が元服をして、奈良の京の春日の里に所領がある縁で鷹狩に出かけた。その里に、たいそう美しい姉妹が住んでいた。この男はその姿を物陰からのぞき見した。すると、思いがけず旧都には不釣り合いな美しい姉妹がいたので、男はすっかり心を乱してしまった。

確かに文末は「けり」で終わっています。ただ、示したのは冒頭部分だけですので、もちろんすべての文末が「けり」になるわけではありません。それでもかなり多用されているようです。当時は句読点もありませんでしたから、文章の切れ目がわかりづらかった面もあったのではないでしょうか。「けり」を見て「ここまでが一文だ」と判断したのも納得できます。

「けりをつける」というと、なんだか恐ろしげな響きがありますが、実際はそんなにこわい意味ではなかったんですね。

思ってた「けり」とは違っててびっくりした。

まとめ

ふだんあまり意識せずに見聞きしたり使っていることばでも、実は意外な意味がひそんでいて楽しいですね。これからも調べ作業を続けていきたいと思います。最後まで読んでくださってありがとうございました。