「頂く」と「いただく」の使い分けはどうすればいいの?

表記の決まりごと

「頂く」と「いただく」の使い分けを確認しましょう

「いただく」の表記ですが、「頂く」と漢字にする場合と、「いただく」とひながなにする場合があります。漢字で書くのは「雪を頂く山」や「頂き物」などの場合で、「いただく」とひがなにするのは「来ていただく」など、主に補助動詞の場合です。

ただ、そのほかにも気をつけたい点がありますし、簡単なようで迷う場合がありますので、ここで改めて「頂く」と「いただく」の使い分けについて確認しておきたいと思います。

「頂く」と漢字にする場合①「上にある」のは「頂く」

「頂く」には複数の意味がありますが、まず、「頭の上にのせる」や「上にある」という意味で用いる場合は「頂く」と漢字にします。偉い人を上に据えて、敬い仕える場合も「頂く」を使います。

・雪を頂いた富士山は絶景である。
・満天の星を頂く夜空は見事だろうな。
・西日を頂く夕暮れの情景が私は好きだ。
・本会は大学の名誉教授を会長に頂く組織である。

「山の頂き」などの名詞の場合はもちろん漢字よね。

「頂く」と漢字にする場合②「もらう」の謙譲語

「頂く」は「もらう」の謙譲語としても用いられますが、この場合は「頂く」と漢字で書きます。「頂く」は日常の中でも使い慣れている表現だと思います。

「頂戴」という言葉があるように、「頂」も「戴」も似た意味ですが、「頂く」よりも「戴く」のほうが「ありがたくいただく」という意味が強くなります。ただ、常用漢字表には「戴」は「タイ」の読みしかなく、「いただ(く)」とは読ませていませんので「頂く」を用います。どうしても「戴(いただ)く」を用いたい場合は、原則としてはルビかふりがなを用いることになります。

・頂き物をおすそ分けします。
・おいしい銘菓をおみやげに頂いた。
・頂いたご助言が身にしみました。
・初めて給料を頂けたのでうれしい。
・緑綬褒章を頂き、感無量でございます。
※緑綬褒章を戴(いただ)き、感無量でございます。

「戴く」ってこれまであまり見たことなかったな。

「いただく」とひらがなにする場合① 「食べる」の謙譲語・丁寧語

同じ謙譲語ではありますが、「食べる(飲む)」の謙譲語・丁寧語としての「いただく」はひらがなで書きます。「いただきます」というあいさつもひらがなですね。「お風呂に入る」も、丁寧な言い方をすると「お風呂をいただく」になります。

・冷めないうちにいただきましょうよ。
・おなかいっぱいいただいて満足です。
・お風呂、お先にいただきました。
・おいしそう。いただきます!
・地元の銘酒をいただかないわけにはいかないよ。
○どうして「食べる」の謙譲語・丁寧語はひらがなで書くの?

なぜ「食べる」の意味の「いただく」はひらがなかというと、漢字で書くと「戴く」になるからなんですね。でも、前述したように、「戴く」は「いただく」とは読ませていませんのでひらがなで表記します。

このように、「食べる」の謙譲語はひらがなにすると明確に言及しているのは新聞・マスコミ表記の『記者ハンドブック』です。一部の公用文の解説書では「食べる」の謙譲語を「頂く」にしているものもありましたが、これは「戴」を「頂」で代用するという考え方だと思われます。ですから、公用文の立場であれば、食べる意味であっても「頂く」と書いてもいいかもしれません。

ただ、「もらう」の謙譲語と「食べる」の謙譲語・丁寧語の両方を「頂く」にすると、どちらの意味なのかわかりにくくなってしまいますよね。漢字とひらがなで書き分ければ、「お酒を頂いた」は「お酒をもらった」、「お酒をいただいた」は「お酒を飲んだ」というように違いが理解できます。もちろん、絶対にそうでなければならないということではありませんので、それぞれふさわしい表記を用いてくださいね。

言われてみれば、食べ物を「頂く」だと、野菜をもらったみたいに感じるかも。

「いただく」とひらがなにする場合② 「補助動詞」の「いただく」

「いただく」は、別の動詞にくっついて補助的な働きをすることがあります。これを補助動詞といいます。補助動詞の場合は「いただく」とひらがなにします。「て」に続くことが多く、「~ていただく」というように用いられます。

・貸したものを返していただきたい。
・こちらに座っていただけますか。
・彼には親切にしていただいた。
・出席していただくことは可能でしょうか。
・有名な先生に教えていただけることになった。

「ご(お)~いただく」の形で用いられる謙譲表現について

あらたまった場においては、「ご助言いただきありがとうございます」や「ご提案いただいた件ですが」のような表現がよく使われますよね。これは、自分のために何かしてもらうことの謙譲表現で、「ご(お)~いただく」の形で用いられます。

「助言」や「提案」というものは「する」ものですので、「助言していただきありがとうございます」というところですが、「ご」や「お」が入って、「して」や「て」が抜けたんですね。ですので、「いただく」は補助動詞になりますのでひらがなで書きます。

このような用いられ方はとてもたくさんあって、私たちも、あまり意識せずに便利に使っていますよね。

・ご配慮いただく (配慮してもらう)
・ご手配いただく (手配してもらう)
・ご心配いただく (心配してもらう)
・ご提案いただく (提案してもらう)
J
・お褒めいただく (褒めてもらう)
・お招きいただく (招いてもらう)
・お知らせいただく(知らせてもらう)
・お掛けいただく (掛けていただく)

「お気遣いいただきありがとうございます」って私もよく使うわ。

否定形の「いただけない」もひらがなにしましょう

「いただく」を否定形で「いただけない」として、「感心しない」「評価できない」という意味で用いたりもします。「その案はいただけない」などの場合ですね。このように、本来の意味とは異なった用い方の場合にはひらがなで「いただけない」とひらがなで表記してくださいね。

・その学習態度はいただけないな。
・収益は上がっても、やり方がいただけない。
・いくら不満があるからって、その言い方はいただけない。

否定的な意味合いで用いる際にひらがなにする表記はほかにもあります。例えば「悪事をはたらく」とか「息子をかたる詐欺」などの場合です。これらは漢字の持つ本来の意味から離れてしまっているためにひらがなで表記するんですね。

「いただく」っていろんな使い方があって、ちょっと勉強になった気がする。