はじめに
お酒を飲んで酔っ払ってしまうと「ろれつ」が回らなくなったり、「へべれけ」の状態になったり、最後には「大虎」になって周りを困らせてしまうなんていうこともありますよね。
最近では健康志向やマナー意識の高まりで無理な飲み方は減りましたが、お酒にはリラックス効果がありますから、心を解きほぐしてくれるよき相棒であることは間違いないようです。
今回は、お酒に酔う様子を表現した言葉のうち、「ろれつが回らない」「へべれけ」「大虎」の意外なルーツをご紹介します。知っていると、次のお酒の席でネタとして使えるかもしれません。
「ろれつ(呂律)」は雅楽の音階のことだった
酔っ払って言葉がはっきりしなくなることを「ろれつが回らない」といいますが、「ろれつ」を漢字で書くと「呂律」になります。
実は「呂律」は日本の伝統音楽である「雅楽(ががく)」の用語なんですね。お正月に神社などで耳にする、あの独特で厳かな音楽が雅楽です。
雅楽には「呂(りょ)」と「律(りつ)」という、西洋の音楽でいえば「長調」と「短調」のような2つの音階があります。この2つはきちんと使い分けなければならないのですが、それがなかなか難しく、音階がまざってしまうことがあるようです。
それで雅楽では、調子が狂ってしまうことを「呂律が回らない」と表現しました。それがいつしか言葉の調子が狂うことにも用いられるようになったんですね。
雅楽は「雅(みやび)な音楽」と書きますが、それに対して民謡などの庶民の音楽は「俗楽」と呼ばれて軽んじられてきた歴史があります。ですから、ろれつが回らなくなるくらいお酒を飲むことができたのは「雅(みやび)」な人たちだったのかもしれません。
「へべれけ」はギリシャ神話の女神の名前?
ひどく酔いつぶれたさまを「へべれけ」といいますが、実はギリシャ語でもひどく酔っぱらうことを「ヘベリュケ」というんです。発音も意味もそっくりなのがおもしろいですよね。
ギリシャ神話には、青春の女神「Hebe(ヘベ/ヘーベー)」が登場するんですが、彼女の仕事は、神々が集まる宴会で、不老不死を授ける神酒「ネクタル」を注いで回ることです。それで、ギリシャ語には、女神にちなんで「ヘベリュケ=酔いしれる(ひどく酔う)」という言葉があるんですね。
一説では、この「ベベリュケ」が幕末から明治にかけて日本に入って「へべれけ」になったというのですが、少し強引ですので、私は単なる偶然の一致だと思っています。
ただ、居酒屋で「へべれけ」になった人を見かけたら、不老不死の神酒に酔いしれている姿を重ねてみるのも楽しいかもしれません。
どうして酔うと「大虎(おおとら)」になるの?
泥酔して手がつけられなくなった人を「虎になった」とか「大虎だ」などとといいますよね。もはや人間ではなく獣になってしまったという意味です。でも、どうして「狼(おおかみ)や「熊」ではなく「虎」なのでしょうか。
そのヒントはお酒の呼び方にあるようです。かつて宮中に仕える女性たちは、お酒のことを「笹(ささ)」と呼んでいました。これは女房詞で、中国ではお酒を「竹葉(ちくよう)」と呼ぶことから、「竹の葉=笹」を連想して使われたんですね。
「竹/笹」といえば「虎」がセットで描かれるのが当時は定番の組み合わせだったことから「お酒を飲んで酔っ払った」が「笹の葉っぱの陰から虎が出てきた」という比喩になったというわけです。なかなか粋な表現ですね。
まとめ
酔っ払いを表す言葉には、ほかに「千鳥足」や「目が据わる」「出来上がる」など、日本語ならではの豊かな表現がたくさんありますが、それだけお酒は暮らしになくてはならないものであり、つい飲み過ぎてしまうシーンも多かったことの左証ではないでしょうか。
気分よくお酒に酔うのならいいのですが、お酒を飲んでいないのに急に「ろれつ」が回らなくなった場合は、脳梗塞や脳出血といった脳血管障害の前兆である可能性もありますので、違和感を感じたらすぐに病院を受診したほうがいいそうです。
健康に気をつけながら、古人が言葉に込めた粋なユーモアを肴(さかな)に、おいしいお酒を楽しんでくださいね。
最後まで読んでくださってありがとうございました!

