「美味しい」は当て字なんです
「おいしい」というときに「美味しい」という表記をよく目にしますよね。ただ、「美味しい」は当て字ですので、公用文や新聞マスコミでは「おいしい」とひらがなで書くのを原則としています。
国が示す漢字表記の基準の常用漢字表に従えば、「美味」は「びみ」という読みになり、「美味しい(おいしい)」は熟字訓としても載せていないためです。
ただ、「美味しい」という表記は広く浸透していますし、特に読み方で困るようなこともありませんので、漢字で「美味しい」と書いても問題ないと思います。必ず「美味しい」と書くのではなくて、「「美味しい」も許容される」ぐらいのイメージでしょうか。
特にこだわりがないなら「おいしい」とひらがなのほうがよいかと思いますが、「味」が「美しい」と書いて「美味しい」はセンスのいい表記でもありますので、そこはご自身で判断なさってくださいね。
「おいしい」は「お」+「いしい」だった
「おいしい」の「お」は、もともと接頭辞の「お」なんです。いわゆる丁寧語としての「お」で、「ちょっと上品に言ってみた」的な「お」ですね。
では、「いしい」とは何かというと、古語の「いし(美し)」がもとになっています。「いし」は「好ましい/優れている/見事だ」という意味を持つ形容詞なんです。
この「いし」という言葉を、室町時代の女房たちが女房詞特有の言い回し(~しい)へと変化させて「いしい」にして、「美味(びみ)だ」という意味で用いたんですね。
さらに江戸時代になると、それに丁寧な言い方の「お」が付いて、「おいしい」の形で一般化したというわけです。
いし → いしい → おいしい
いわゆる「おいしい」を言い表すことばには、ほかに「うまい(旨い)」がありますが、それは男性語であって、女性は「おいしい」を使うのが江戸時代のトレンドだったようです。今でもその流れは少し残っているかもしれませんね。
女房詞の最上級が「御御御付」?
おみそ汁のことを「おみおつけ」といいますが、これは「御御御付」と接頭辞が3つも付いていることで有名ですよね。(※「御実御付」とする説もあります)
そのほかに、「おかき(お欠き)」「お焦げ」「おかず(お数)」「お酌」「お重」「お新香」「お玉」など、とかく女房詞には食べ物に関するものがたくさんあります。これは台所を取り仕切っていた女房の役割と無関係ではないでしょう。
「この言い方のほうがお上品でございますわよ~」と競うようにして言い方を工夫していた女性の意地とプライドが見え隠れしするようにも思います。このように、「おいしい」は、当時の女性たちのけなげな努力から生まれたことばだったんですね。
ちなみに、「おいしい」に「美味しい」が当てられるようになったのは比較的最近で、明治・大正時代に端を発し、一般に広く浸透したのは戦後のことのようですよ。

