表記に迷ったら

日本語そもそも

一般的な辞書と表記辞書との違い

私たちは、単語の意味や用法を知りたいときには辞書を引きます。国語辞典だけでなく、目的によって漢和辞典や古語辞典、英和辞典など、さまざまありますよね。最近では電子辞書やウェブ辞典が充実していますから、紙の辞書を引いて確かめる機会は少なくなっているのもしれません。

ただ、意味を調べたいのでもなく、漢字を確認したいのでもなく、書き方を知りたい、表記を確認したい場合は辞書では目的を果たせません。例えば、次のような文章を書きたい場合、あなたはどう表記するでしょうか。

「私たちは彼を救うためのじゅうぶんな用意がある。」

「じゅうぶん」は「十分」とも「充分」とも書けますし、どちらも意味は同じで、辞書を引いても並列で書いてあります。そんなときに表記辞書を開くと、「充分→十分」や「十分(充)」などと示されていて、「十分」を用いるのが基本なんだなと理解できるようになっています。もちろん「充分」でも間違いではありませんが、例えば雑誌を発行するのに、記者さんごとにばらばらだと困るので、統一性をもたせるために示しているということです。

「私たちは彼を救うための十分な用意がある。」

このように、意味ではなく表記に特化したものが、いわゆる「表記辞書」なんですね。日本語のルールは内閣告示文書に示されていますので、直接、その文書を参照してもよいのですが、本にまとまっていたほうが便利ですし、実際に公文書の表記に関する書籍はたくさんあります。また、そのルールを下敷きにして、各報道機関では独自の表記について定めています。

表記辞書もいいけど、このサイトも役立ちそうだよね。ということで、さらりとPRしてみました。

日本語の表記に関する参考文献

繰り返しになりますが、公用文においては、常用漢字のほか現代仮名遣いや送りがなのルールなどを内閣告示文書で示していますし、公用文作成の際の要領も出されていて、これに基づいて各報道機関でもそれぞれ独自の表記ルールを定めています。

表記について出版されている図書としては以下のようなものがあります。ほかにもたくさんありますが、代表的なもののみ挙げておくことにします。

・『最新公用文用字用例集(増補版)』(ぎょうせい公用文研究会編)[公用文]
・『新訂 標準用字用例辞典』(公益社団法人日本速記協会)    [議事録]
・『新聞用字用語集(記者ハンドブック)』(共同通信社)     [新 聞]
・『NHK漢字表記辞典』(NHK放送文化研究所編)       [放 送]

それぞれ改訂されて新しいものが出ている可能性がありますので、購入する際には昔の古本よりも版の新しいものがよいと思います。ほかにも新聞社や出版社ごとに独自の手引書が発行されています。

・『読売新聞 用字用語の手引』(中央公論社)
・『朝日新聞の用語の手引』(朝日新聞社)
・『日本語の正しい表記と用語の辞典』(講談社校閲局編) など

公用文に関するものについては、用語が中心のもの、解説が中心のものなど本当にさまざまありますので、目的に応じて選んでください。公務員の方でしたら手引き書をお持ちだと思います。

議事録を作成する立場の方は『標準用字用例辞典』がありますが、書店では販売されていないので、どうしても欲しい場合は日本速記協会のホームページから購入することになります。

一般的には、「記者ハンドブック」の名で知られる『新聞用字用例集』が広く用いられていますので、記者さんやライターさんはじめ、個人発信の場合もこれが無難な選択でしょう。ただ、「新聞」とあるように縦書きが前提となっていますので、数字の使い方には注意が必要です。表記は慣れや好みもありますので、原則を頭に入れながら自分の方針を決定してください。

表記の手引書による違い

新聞社や出版社、放送局によって、例えば「手を付ける」にするか「手を着ける」を採用するかなど若干の違いがありますが、共通した違いは以下のとおりです。

常用漢字にあっても使わないとしている漢字として、マスコミ各社では共通して「虞 且 遵 但 朕 附 又」を定めています。議事録表記では「虞 且 但」の3文字です。

虞 且 遵 但 朕 附 又
これらは常用漢字ですがマスコミ表記では用いません。ただし固有名詞は除きます。

反対に、マスコミ各社で常用漢字表にない読み方を認めている漢字が、の「証し(あかし)」「絆(きずな)」「鶏(とり)」「炒める(いためる)」「栗(くり)」です。このように数は多くありませんが、それぞれ独自のルールとして漢字(または読み)を追加しています。

証し(あかし) 絆(きずな) 鶏(とり) 炒める(いためる) 栗(くり)
これらは常用漢字表にない表外字ですが、多くの媒体で使用を認めています。

常用漢字表にない漢字のことを略して「表外字」というのね。