はじめに
出産方法には「自然分娩」と「帝王切開」があって、最近では「無痛分娩」も話題ですが、「帝王切開」の「帝王」って何のことだかおわかりですか? あまりに唐突すぎるネーミングですよね。「帝王切開で生まれた子どもは帝王になる!」という予言めいたことなんでしょうか。謎は深まるばかりです。
そこで今回は、「帝王切開」はなぜ「帝王」を用いているのか、語源に迫ってみたいと思います。
カエサルが帝王切開で生まれた説は本当なの?
どうして「帝王」なのかというと、カエサルがこの方法で生まれたとされているからなんです。カエサルというのは、かの有名な古代ローマのガイウス・ユリウス・カエサルのことです。
カエサルは今から2000年以上前の人ですが、政治家であり、軍人であり、著述家としても知られています。カリスマ性もあったのでみんなから大人気でした。
カエサルはとても有能だったため、彼の名は「偉大な指導者」の代名詞となり、後に「皇帝」を意味するドイツ語の「Kaiser(カイザー)」の語源になりました。そのため、「帝王切開」の「帝王」はカエサルのことというわけです。
英語やドイツ語で「帝王切開」はなんていうの?
カエサルが帝王切開で生まれたとするなら、日本語よりも外国語にその根拠があるはずです。そこで、欧米では「帝王切開」をなんと呼称しているのか確かめてみることにしました。
英語:Caesarean section (C-section)
ドイツ語:Kaiserschnitt
フランス語:Cesarienne
イタリア語:Taglio cesareo
「帝王切開」は、英語では「Caesarean section(カエサリアン・セクション)」、略して「C-section」といいます。「Caesarean」は「カエサルの」ですし、「section」は「切開」という意味ですね。病院のカルテには「CS」と略して書いてあるかもしれません。
ドイツ語では「Kaiserschnitt(カイザーシュニット=皇帝の切開)」といって、やはりカエサルの名前に由来する「カイザー」が入っています。フランス語やイタリア語も同様です。
このように、「カエサル」の名前にちなんだ呼び方は、日本だけでなく、欧米諸国を中心とした多くの国々で、医学的な正式名称として定着しています。
実は聞き間違えから生まれた言葉だった
とはいえ、紀元前の時代に帝王切開という大手術ができたんでしょうか。ちょっと怪しい感じがしませんか?
当時、帝王切開、つまり、腹壁と子宮壁を切開して胎児を取り出す方法は、お母さんが亡くなってしまった場合に赤ちゃんを助ける最終手段でした。ただ、カエサルのお母さんはカエサルが大人になってからも生きていたという記録があるそうですから、実際には帝王切開で生まれたわけではなさそうです。
それなのに、なぜカエサルがおなかを切って生まれたことにされたのかというと、ラテン語の「切る」という言葉の「caesus(カエスス)」が「カエサル」に似ていたため、後の時代の人が聞き違えてしまったという説が有力です。
日本では江戸時代にドイツの医学書を訳した際、「Kaiserschnitt(皇帝の切開)」を直訳したので「帝王切開」という今の名前になったというわけです。
いずれにしても、カエサルがあまりに有名な人物であったことから生まれた言葉であることには間違いなさそうですね。
終わりに
「帝王切開」と聞くと「選ばれし者の特別な出産」のように聞こえますが、実は言葉の聞き間違えから広まったんですね。いわば「歴史的な勘違い」ともいえるエピソードですが、帝王切開であってもなくても、無事に新しい命が誕生したならば、その子は家族にとっての『小さな帝王』に違いありません。


