あらわれる/「表れる」「現れる」で迷うのは「顕れる」と書けないから

もう迷わない 漢字のチョイス

はじめに:「表/現」以外の「あらわれる」がある?

「あらわれる」の表記には「表れる」と「現れる」があって、「表れる」は「表に示されること」、「現れる」は「形が見えるようになること」だと認識していても、これってどっちだだろうと迷うことは多いのではないでしょうか。「あらわす」だとあまり迷いがないのに、なぜか「あらわれる」になると迷いが生じます。

例えば、「成果があらわれる」の表記ですが、新聞表記の『記者ハンドブック』では「成果が表れる」としているのに対し、公用文表記の『最新公用文用字用語ハンドブック』では「成果が現れる」にしています。このように、表記辞書であっても異なる用例を示しているほどですから迷って当然です。つまり、どっちの意味か特定しにくい「あらわれる」があるということなんですね。それが「あきらかになる」という意味の「顕れる」です。

この場合、データやグラフによって成果が示された場合は「表れる」ですし、何らかの現象として見えるようになったのなら「現れる」ですが、そもそも表出したのか出現したのかわからなければ漢字にしようがありません。その場合は「あきらかになる」という意味の「顕れる」にしたいところですが、残念ながら常用漢字表では「顕」に「あらわれる」という読みは示されていません。ですから、どちらとも判断しがたい場合は「あらわれる」とひらがなにしていいのではないかと思います。

今回は、このように、ちょっと紛らわしい「表す/表れる」「現す/現れる」の意味と使い方を確認するとともに、使い分けのポイントについて探っていきたいと思います。もちろん迷ったらひらがなで大丈夫ですが、一応のポイントを押さえておくとかなりすっきりすると思いますので、どうぞ最後までおつきあいくださいませ。

「表れる」「現れる」「顕れる」はどう違う?

まず、「表れる」「現れる」「顕れる」の意味の違いについてですが、大きくいえば次のようになります。ただし、前述したように「顕れる」は漢字で書けませんので、文脈によって「表れる」「現れる」にするか、もしくはひらがなで「あらわれる」にしてください。

表れる:心情や事象がはっきりと表出されること
現れる:目に見えなかったものが出現すること
顕れる:確かではなかったことが明らかになること →「表れる/現れる/あらわれる」のいずれかで書く

このことを念頭に置いて「表す/表れる」「現す/現れる」の使い方を確かめていきましょう。

「表す/表れる」の意味と使い方

「表す/表れる」は、「気持ち」や「ありさま」など、具体的な姿を持たないものを、何らかの手段を使って「表現すること」、あるいは、はっきりとした形で「表出される」ことです。

具体的な用例で確かめてみましょう。

(表現される)
・言い表す
・文章で表す
・態度に表す
・気持ちを表す
・悲しみを表す
・喜びを表す
・グラフに表す
・図表に表す
・名は体を表す
・Kはカリウムを表す

(表出される)
・顔色に表れる
・結果に表れる
・数字に表れる
・喜びが表れた作品
・贈り物は彼の好意の表れだ
・弱気な発言は依存心の表れだ
・成功はこれまでの努力の表れだ

「名(な)は体(たい)を表す」というのは、「人や物の名前はそのものの性質を示すものだ」という意味ね。

「現す/現れる」の意味と使い方

一方、「現す/現れる」というのは、今まで隠れていたり知られていなかった「姿」や「現象」が「見えるようになる」こと、あるいは「出現する」ことです。

(見えるようになる)
・姿を現す
・正体を現す
・才能を現す
・手腕を現す
・馬脚を現す
・頭角を現す
・才能を現す
・本性を現す

(出現する)
・怪獣が現れる
・救世主が現れる
・才能が現れる
・強敵が現れる
・太陽が現れる
・視界が開けて海が現れた
・アイドルが彗星のごとく現われた

「馬脚(ばきゃく)を現す」というのは、「隠していた本性や悪事がバレる」という意味だね。

文脈で使い分ける「あらわれる」

前述した「成果があらわれる」や「変化があらわれる」もそうですが、「症状があらわれる」など、表出したのか出現したのか判断がつかない場合もあります。また、「全容があらわれる」など、明らかになるという意味で「あらわれる」を用いることもあります。

数値やデータから見て取れるようになったのなら「表れる」ですし、兆しや徴候が見えるようになったのであれば「現れる」でしょうが、例えば病状であれば、発疹などで確認したのか、検査結果の数字で認識したのか、どのような形であらわれたのか判断しづらい場合は「あらわれる」とひらがなでよいのではないかと思いますが、そこは個人の判断に委ねたいと思います。

(文脈で使い分けるもの)
・変化が表れる
・変化が現れる
・変化があらわれる

・成果が表れる
・成果が現れる
・成果があらわれる

・症状が表れる
・症状が現れる
・症状があらわれる
 など

このように、「表れる」「現れる」の使い分けはやっかいなところがありますので、「あらわれる」というひらがな表記も選択肢に入れながら納得のいく表記を選んでみてください。

送りがな:「表わす」「現われる」と書いてもよい理由

「表す」「現れる」の送りがなですが、これは「表わす」「現われる」と「わ」を送っても間違いではありません。なぜなら内閣訓令第1号「送り仮名の付け方」には「許容」として次のように示しているためです。

(内閣訓令第1号「送り仮名の付け方」より)

次の語は,(  )の中に示すように,活用語尾の前の音節から送ることができる。

表す(表わす) 著す(著わす) 現れる(現われる) 行う(行なう) 断る(断わる) 賜る(賜わる)

このようになっていて、「わ」を送ってもいいんですね。なぜ許容しているのかというと、例えば「敬意を表します」といった場合に、「敬意をあらわします」とも「敬意をひょうします」とも読めてしまうので、誤読を防ぐために「わ」を送ってもいいことになっています。ですから、「ひょうす」ではなく「あらわす」と間違えずに読んでほしい場合などは送りがなを工夫してみてください。

・敬意を表す
・敬意を表わす

・弔意を表す
・弔意を表わす

まとめ

・表す:心情やありさまを何らかの手段で表現すること
・現す:隠れていたものが見えるようになること
・表れる:心情やありさまがはっきりと表出されること
・現れる:目に見えなかったものが出現すること
・顕れる:確かではなかったことが明らかになること
・「顕れる」は表外字のため「表れる/現れる/あらわれる」のいずれかにする
・「表わす」「現われる」という送りがなも許容される

今回は「表す/表れる」と「現す/現れる」の使い分けについてまとめてみました。頭の中では理解していても、いざ使おうとすると迷ってしまう「あらわれる」の表記ですが、そもそも日本語は表記が複雑ですので迷って当然だという認識で大丈夫ではないでしょうか。あまり誤用に気を取られずに、ひらがな表記も含めて、語感に合った表記を選んでみてくださいね。

最後まで読んでいただきありがとうございました!