「あと・後・跡・痕」の使い分け/このあと?この後? 後継ぎ?跡継ぎ?

もう迷わない 漢字のチョイス

はじめに

「あと」というと「後」を思い浮かべることが多いのではないかと思いますが、「後」というのは音訓それぞれたくさんの読み方があって、例えば「その後」というと、「そのあと」とも「そののち」とも「そのご」とも読めてしまうんですね。こういう場合はどうすればいいのでしょうか。

      そのあと?
その後 → そののち?
      そのご?

それに、「あとつぎ」は「後継ぎ」なのか「跡継ぎ」なのか、「きずあと」は「傷跡」なのか「傷痕」なのか、ちょっと迷ったりしますよね。

そこで今回は、「あと」「後」「跡」「痕」の使い分けについてポイントをまとめておきたいと思います。いくつかの使い分けを押さえておけば、きっと迷いがなくなるのではないかと思います。

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「あと」を用いるもの/「このあと」はひらがなにする

「後」を「あと」と訓読みする場合のうち、熟語や慣用句にならずに単独で用いる場合は基本的に「あと」とひらがなにします。それはなぜかというと、「後」というと「のち」とも「ご」とも読めてしまうので、誤読を防ぐためにそうします。

また、「後ろ」という意味から少し離れている場合もありますので、単独の訓読みはひらがなを用いることがとても多いんですね。もちろん例外もあって、それは後段で触れますが、まずは「あと」とひらがなにするものを確認していくことにしましょう。

(到達するまでの時間を示す場合)
・あと1年で定年退職だ。
・あと5分しかありません。
・あと10年はかかるでしょう。
・あと一息で頂上です。

(接続語のように用いる場合)
・あと、ほかに何か意見はありますか。
・あと、付け加えてもいいですか。
・あと、買い忘れはないかな。
・以上ですが、あと、質問はありますか。

(「のち」や「ご」の誤読を防ぐために)
・このあとすぐに始まります。
・そのあとのことは知りません。
・提出したあとは休憩してください。
・昼食のあとに再開したいと思います。

(「あと」が好まれるもの ※必須ではない)
・あとでやっておくよ。
・あとは自分で考えてみてください。
・あとのことは任せましたよ。
・あとあと影響が出てくると思う。

「後々」は「のちのち」なのか「あとあと」なのか判断がつかないから、「のちのち」「あとあと」とひらがなで書いたほうが親切よね。

「後」を用いるもの

「あと」と読んでも漢字で書くのは、多くは熟語や慣用的な表現として用いる場合です。決まった言い方の場合は訓読みでも「後」を用いるんですね。なぜなら、広く用いられている言い回しは誤読の心配がないためです。

用例で確かめて見ましょう。

・後押し
・後追い
・後片づけ
・後払い
・後回し
・後戻り
・後を絶たない
・後味が悪い
・後腐れなく
・後釜
・後になり先になり
 など

「あとがき」は漢字で書けば「後書き」だけど、ひらがなで「あとがき」にすることも多いよね。

「後」「跡」「痕」の意味の違い/傷痕は「痕」にする

「あと」と読む漢字は「後」のほかに「跡」や「痕」もありますが、それぞれどのように違うのか、まず、漢字の意味を確認してみましょう。

後:前後関係の後ろや順序や時間などが遅いことを示します。
・後払い
・後回し
・後戻り
・後を絶たない

跡:何かが存在したあとに残されたしるしの意味です。
・車輪の跡
・船が通った跡
・住居の跡地
・跡形もなく

痕:生々しく傷となって残っている痕跡の意味です。
・血の痕がついているよ。
・これが撃たれた弾の痕です。
・やけどの痕が残ってしまった。
・今回の台風は大きな爪痕を残した。

「後」は前後関係で用いるのに対し、「跡」は具体的に残っている何らかのしるしを指しますので、「犯人のあとを追う」というような場合、「後ろを追う」なら「後を追う」、「痕跡を追う」なら「跡を追う」になります。

「痕跡(こんせき)」はどちらも「あと」ですが、「跡」は残された形跡のことで、その中で、特に傷がついた状態のものには「痕」を用います。したがって、「きずあと」という場合には「傷痕」、「つめあと」なら「爪痕」を用います。

「爪痕」や「傷痕」は「痕」を用いるんだね。

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「後継ぎ」も「跡継ぎ」も両方あります

「あとつぎ」というときに、「後継ぎ」か「跡継ぎ」かで迷うことがあるかもしれません。これは両方あって、できれば使い分けたほうがいいんですね。

ほとんどの場合は「後継ぎ」になるようです。「後継ぎ」というのは、もちろんそのままの意味で「あとをつぐ」ことですから、後継者のことですね。前任者から後継者へバトンが渡されて、それを引き継ぐ場合に用います。これは主に職業や役職を引き継ぐ場合に用います。

・社長の後継ぎに推薦します。
・農家の後継ぎとしてやっていきます。
・総裁の後継ぎとしての使命があります。

「跡継ぎ」というのは跡目を継ぐことで、家督や家元など限定的に用いられます。いわば名跡を継ぐようなイメージでしょうか。

・この旧家の跡継ぎとして生まれました。
・流派の跡継ぎとして伝統を守ってみせる。
・跡継ぎ問題がこじれて跡目争いが絶えない。

まとめ

・「あと5分/あと一息」などはひらがなにする。
・「あと、ほかにありますか」などはひらがなにする。
・「このあと/そのあと」などはひらがなにする。
・「後」にするもの:「後払い/後回し」など
・「跡」にするもの:「車輪の跡/住居の跡地」など
・「痕」にするもの:「血の痕/弾の痕」など
・職業や役職は「後継ぎ」、家元や家督は「跡継ぎ」にする。

今回は「あと」について、「あと」「後」「跡」「痕」の使い分けについてまとめてみました。少しでもお役に立てたら幸いです。最後まで読んでいただきありがとうございました。