「わたる」の表記は「渡る」だけじゃなかった
「わたる」というときに、真っ先に思い浮かぶのは「渡る」ですよね。「橋を渡る」や「綱渡り」などとよく用います。
一方、「3年にわたって」の場合や、「多岐にわたる」などは「渡る」ではなく「亘る」になります。ところが、「亘」の漢字は、人名には使えますが、常用漢字表にはないので(表外字といいます)「わたる」とひらがなにするんですね。
渡る → 渡る(向こう側に通り抜けていくイメージ)
・橋を渡る
・綱渡り
・アメリカに渡る
亘る → わたる(時間や空間を塗りつぶすイメージ)
・3年にわたって
・多岐にわたる
・細部にわたる
常用漢字とは? 国では「漢字使用の目安」として2,136字を選んで「常用漢字」とし、一般市民に情報を提供する責務を負う立場であれば、原則として常用漢字の範囲内で表記するように示しています。常用漢字は中学校を卒業するまでにほぼ習得します。もちろん文芸領域や私的な記述を制限するものではありません。
「渡る」と「亘る(わたる)」の意味の違いについて、もう少し詳しく見ていくことにしましょう。
「渡る」と漢字で書く場合
「渡る」というのは、「移動する」「達するようにする」「生活していく」などの複数の意味があります。それぞれ用例で確かめてみましょう。
(①移動する)
・踏み切りを渡ったら右折してください。
・バトンが最終走者に渡された。
・野原を春風が渡っていきます。
(②達するようにする)
・ロープを渡して物干しにする。
・ここに橋を渡せば便利になります。
(③生活していく)
・この仕事で世の中を渡ってきた
・彼は世渡りが下手でかわいそうだよ。
おおまかにはこのような意味で用いられるのが「渡る」です。
「わたる」とひらがなにする場合
次に、ひらがなの「わたる」です。もともとの漢字は「亘る」だけれども、「亘」が表外字であるために「わたる」とする場合ですね。
「わたる」とひがなにするのは、ある期間や範囲が端から端まで及ぶ場合です。AからBに移動するのではなく、AからBまでの間をすべて含むイメージです。
(ある期間や範囲に及ぶ)
・将来にわたって大事にします。
・3日間にわたる交渉は決裂した。
・細部にわたって工夫されている。
・全科目にわたる試験が行われた。
「動詞の連用形+渡る」の場合
「渡る」は動詞の連用形にくっついて、その状態が広範囲に及んでいることを示す場合もあります。単に「響く」というよりも「響き渡る」とすると、より広い範囲に響いていることを強調する表現になりますが、この場合は「渡る」を用いるんですね。
意味からすると「亘る」が近いと思われるかもしれませんが、音や光が向こう側まで通り抜けていくという意味なので「渡る」にするというわけです。複合語の場合は慣用的な表現(決まった使い方)として覚えてしまってもよいかもしれません。
・響き渡る
・鳴り渡る
・澄み渡る
・知れ渡る
・行き渡る
「渉る(わたる)」とはどういう意味?
「わたる」には「渉る」という表記もあります。これは、「さんずい」に「歩く」という文字のとおり、水がある場所を歩いてわたることなんですね。橋を渡るのではなく、ひたひたと水の中を移動していくのが「渉る」です。
このように、一歩一歩、着実に進むことから、「渉外(しょうがい)」や「交渉(こうしょう)」という語として使われています。
でも、常用漢字表を見ると「渉」の漢字は「ショウ」という読みしかありません。そのため、あえて水の中を進んでいくことを伝えたい場合には「わたる」とひらがなにします。つまり、「川を渡る」というのは川の向こう側に移動することですが、「川をわたる」というと、川の中を歩いたり泳いだりして向こう岸にわたるという意味になるんですね。
・飛行機でアメリカに渡った。
・浅瀬を選んで向こう岸にわたった。
まとめ
今回は「わたる」の表記についてまとめてみました。
・移動・通過するなら「渡る」(橋を渡る、響き渡る)
・範囲・期間を表すなら「わたる」(3年にわたる、多岐にわたる)
・迷ったら「ひらがな」でOK!
最後まで読んでくださってありがとうございました。


