はじめに
皆さんは、「あり得る」は「ありうる」と読むでしょうか。「ありえる」と読んでいるでしょうか。実は、常用漢字表を見てみると「ありうる」なんです。でも、実際は「ありうる」とも「ありえる」とも読んでいますし、そう使っていますよね。つまり、国が示している使い方ではないものが一般的になってしまっているんです。どうしてこんなことになってしまっているのでしょうか。今回はその謎に迫ってみたいと思います。
常用漢字表で「得」を確認しよう
実際のところどのように示されているのか、常用漢字表で確認してみましょう。
(常用漢字表より)
得 |トク |得意,会得,損得
|える |得る(⇔獲る)
|うる |得るところ,書き得る
このように、「得」は「える」とも「うる」とも読ませていますが、「得る(える)」は「収入を得る」のような、何かを獲得するという意味の「得る」であって、「できる」という意味なら「うる」と読むように示されているんですね。ですから、次のように使うのが原則になります。
得る(える):収入を得る 承認を得る 知識を得る
得る(うる):あり得る なし得る 言い得る
文語と現代語の混在
ただ、現実には「あり得る」は「ありえる」と読むことも多いですよね。「あり得ない」は「えない」ですから、「あり得る」も「ありえる」と読むのが自然です。それを無理に「ありうる」とするのは少々強引なように思います。
どうしてこんなややこしいことになっているのかというと、文語(うる)の活用と、現代語(える)の活用が異なるためです。つまり、終止形や連体形では「える」と「うる」が共存してしまっているんです。「あり得る」という表現は文語なのに、それを現代語のように用いているため、ということになるでしょうか。
原則に従えば文語的な表現は「うる」になります。文語は格調高い響きがあって、「できることは全てやりたい」よりも、「できうることは全てやりたい」のほうが、なんだか説得力がありますよね。こうした表現がまさに文語的な表現になります。
現代語:できることは全てやりたい。
文語:できうることは全てやりたい。
「できる」が「できうる」であるように、「ある」は「ありうる」になるはずですが、実際には「ありえる」も多用されていて、それは文語の活用の形をとらず、むしろ「ありえる」のほうが多く用いられているんですね。
「える」と「うる」の表記はどうすればいい?
では、「える」と「うる」はどう表記すればいいのかというと、「ありえる」は「あり得る」、「ありうる」は「ありうる」と区別して書き分けることが多いようです。新聞表記がそうですが、出番の少ない「うる」をひらがなにするという立場になります。
一方、誤解のないように、両方ともひらがなにする立場もあります。例えばNHK表記がそうですね。
公用文は原則として常用漢字表に従いますので、「ありうる」は「あり得る」にして、「ありえる」は用いないということになります。
このように、「得る」「える」「うる」の扱いは統一されていませんので、それを念頭に、ご自身で納得のいくものを選んでみてくださいね。
「やむを得ない」とはどういう意味?
「得る」の関連して「やむをえない」という表現に触れてみたいと思います。
「やむをえない」とは「しかたがない」とか「どうしようもない」という意味で、「やむを得ない事情があったのだろう」とか「彼が欠席するのはむを得ないことだ」などと用います。また、「やむを得ず歩くことになった」のように「やむを得ず」の形になることもあります。
・やむを得ない事情があったのだろう。
・彼が欠席するのはむを得ないことだ。
・やむを得ず歩くことになった。
「やむを得ず」は、もともとは漢文の「不得已」を、日本語で「やむを得ず」と訓読してできた言葉です。「已」は「止」の意味ですので「止むを得ず」と書くこともあります。
意味としては、「得」は「できる」ですから、「不得」だと「できない」になって、「已」は「止める」の意味ですから、「止めておくことができない」、つまり「なりゆきにまかせるしかない」とか「しかたがない」という意味になります。
なぜ「やもうえない」と発音してしまうのか
「やむを得ない」は、発音するときは、どうしても「やもうえない」になりがちです。どうして「やむを」が「やもう」になってしまうのかというと、「やむを(yamuo)」は母音の「u」と「o」が連続するので、それがくっつくいて「yamoo」になってしまうためです。これを母音融合といいます。
発音としてはどうしてもそうなりがちですが、書く場合にも「やもうえない」にしてしまうと、意味を理解せずに用いていると思われてしまいますので、少し注意してみてくださいね。
○ やむを得ない
× やもうえない
まとめ
・本来、「あり得る」は「ありうる」と読みます。
・「える」も「うる」も「得る」と書いて問題ありませんが、区別したい場合には「うる」をひらがなにするか、あるいは、誤解のないようにどちらもひらがなにします。
・「やもうえない」ではなく「やむを得ない」が正解です。
・「やむを得ない」とは「しかたがない」という意味です。
今回は、「やむを得ない」の意味と、「うる・える」の読みと表記についてまとめてみました。説明がわかりにくかったかもしれませんが、最後まで読んでくださってありがとうございました。


