お月さまが好きなすべての日本人のための『宇宙兄弟』

次世代に伝えたい傑作アニメ

まだ見てないなんてもったいない傑作アニメ『宇宙兄弟』

日本のアニメは本当にすばらしくて名作ぞろいです。世界に誇れる日本のカルチャーといったら、まずはアニメが挙げられますよね。たくさんのアニメがあってとてもすべては見られませんが、その中でも未来に引き継ぎたい名作を厳選して紹介していきたいと思います。今回は『宇宙兄弟』です。

『宇宙兄弟』のアニメは漫画が原作で、漫画が連載開始になったのが2008年、アニメが放送されたのが2012年からですから、今からかなり前ですよね。これだけ長く愛されているには、やっぱりワケがあるんです。現在も漫画のほうは続いていますが、ここでは「アニメ作品」としてのご紹介となりますので、そこのところはご理解のほどよろしくお願いいたします。次期のアニメも楽しみですね。

『宇宙兄弟』は、漫画、アニメのほかに、小栗旬さん主演で映画にもなりましたから、何らかの形でご覧になった方は多いと思います。見ていないとしたら、むしろ若い世代かもしれません。日本のアニメは本当にクオリティーが高いですが、未来に残り続ける名作というのはやはり限られます。その中でもぜひともお薦めしたいアニメのひとつが『宇宙兄弟』なんです。とにかく見れば納得していただけると思いますので、宇宙に興味があってもなくても、ぜひぜひ一度は見てくださいね。かなり深~い内容ですよ。

日本人が初めて月面に降り立った2026年がやってくる!

タイトルに「兄弟」とあるとおり、もちろんこれは兄と弟の物語です。兄の南波六太(ナンバムッタ)は1993年10月28日生まれ、弟の南波日々人(ナンバヒビト)は1996年9月17日生まれで、彼らが30歳前後に何をしているかという想像のお話なわけですが、弟のヒビトが日本人初の月面着陸者となったのが2026年の設定ですから、なんとその日が間近に迫っているんです!

私たちは、どんな兄弟姉妹の中で育つのかはまったくの偶然で、兄弟姉妹が多い人もいれば、一人っ子の場合もあるでしょう。男ばかり、女ばかりということもありますよね。仲がいい兄弟もいれば、険悪な関係になっていることもあるかもしれません。兄弟づきあいはなかなか難しいものです。「兄弟は他人の始まり」なんていう言葉があるくらいですからね。でも、この兄弟はというと、くっつきすぎず、離れすぎず、それでいてお互いのことを思っている理想的な兄弟です。

南波家では、弟は宇宙飛行士なのに、兄のほうは会社をクビになって求職中というところからお話が始まります。作品中でムッタは何度も「兄とは常に弟の先を行ってなければならない」とつぶやくのですが、優秀な弟を持つ兄の複雑な心境が正直に吐露されて、気の毒になりながらも少し笑ってしまいます。そこへきて外見さえも、弟のヒビトはイケメンで、兄のムッタはちょっと残念ぽいときていますから、ムッタにすっかり心を奪われるには十分な要素です。弟を横目にいじけてしまってもいいはずなのに、そうならないのがムッタの人間力のなせる業ですね。

適度な庶民感覚が共感をよぶ

アニメの中では両親の名前は出てきませんが、お父さんは南波長介さん、お母さんは真弓さんだそうです。職業は不明ですが、お父さんは普通のサラリーマン、お母さんは専業主婦っぽい描かれ方をしています。JAXAから届く郵便物を見ると、住所は東京都西高東低市の「たけのこニュータウン」に住んでいるようなので、文字どおり絵に描いたような中流家庭といったところでしょうか。

お父さんは笑えないモノマネの一発芸ばかり飛ばしているし、お母さんはファッションに無頓着で、教育熱心な印象はみじんもありません。将来的にはムッタも宇宙飛行士になるのですが、宇宙飛行士を2人も育てたんだったら、『兄弟の宇宙飛行士を育てた母が教える天才の育て方!』なあんて本を出版したり、教育評論家を気取ってもいいはずなのに、そんなことなど天地がひっくり返ってもしないだろうなと思わされるあたり、「うちの親とそんなに違わないじゃん」と、むしろ自信を持てるのではないでしょうか。この作品のよさは、宇宙飛行士だからと特別な世界として描かれているのではなく、努力や苦悩を含めて、どんな職業にも置き換えられるほどに日常生活から離れないことだと思います。

『宇宙兄弟』の魅力

第1期は全部で99話もある長編で、ムッタとヒビトそれぞれの物語が並行して進んでいきますので内容がとても充実しています。見るだけで、宇宙飛行士になるまでの険しい道のり、試験内容、そして月に行くためのトレーニングがどれほどのものかを知ることができるんですから絶対にお得です。宇宙飛行士になりたい人にとったら模擬試験の実況を見ているかのような貴重な情報満載ですよ。それと、人間力が試される場面も多く出てきます。

内容は大きく3つのパートに分けることができます。まず前半部分ですが、兄のムッタは弟のヒビトを追ってJAXAの宇宙飛行士の新規採用試験に応募し、さまざまな難しいテストに挑みながら、なんとか合格者の5名に残ります。一方、すでに宇宙飛行士になった弟のヒビトは日本人として初めて月に降り立ち、重大なアクシデントを経験しながらも無事に地球に帰還します。月面での事故は手に汗握る展開で、見ていても息が苦しくなってしまいます。

中盤では、ムッタは宇宙飛行士になるべくアメリカのNASAへ渡りますが、そこでは厳しいトレーニングが待っていました。そのころ日本ではヒビトフィーバーが起こっていました。なんとヒビトをモデルにしたアニメが放送されるほどの盛り上がりぶりです。しかし、ヒビト本人はというと、月での事故が原因のパニック障害に苦しんでいたんです。

後半では、ムッタは見事、先行して月に行くチームのバックアップクルーの一人に選ばれ、次に月に行く際には間違いなく自分も選ばれるというポジションを獲得します。ヒビトはというと、訓練によってパニック障害を克服し、それを証明してみせるのですが、それが認められませんでした。そこでヒビトは重大な決断をしたのです。

ここまでが第1期のあらすじですが、ラストは「月面で会おう」と兄弟それぞれが誓うシーンでしたので、これからどんな展開になるのか想像してみるのもまた楽しいですね。繰り返しになりますが、ここでは「アニメ」ということでご紹介させていただいていますので、漫画でどうなったか、どこまで進んでいるのかについては触れません。続編がアニメになったらまた感想などを含めて更新したいと思います!

「グリーンカード」によって試される人間力

私たちは、いつもベストな精神状態ではいられるとはかぎりません。「私たち」というと不適切ですね。少なくても私は、疲れていると少し不機嫌になったり、予定どおりに進まないとイライラしたり、ちょっとした言葉に勝手に傷ついたり、本当に人間の器が小さくて、これではとても宇宙飛行士になれません。心配しなくても、私の場合、書類選考で落とされると思いますけれどもね。

「人間力が大切だといっても、そんなのどうやってテストするの? 口では何とでも言えるんじゃないの?」と思うところですが、そこで登場するのが「グリーンカード」なんですね。これは本当に恐ろしいカードです。グリーンカードは、本人には知らせずに突発的な事象をわざと起こして、そのときにどう対処するかを観察するために用いられます。仲間の失敗によって危機的な状況になったとき、平静を保って適切な処置ができるかどうか、人間関係が険悪にならないかどうかを見極めるんですね。

確かに宇宙船内の密室で人間関係がぎくしゃくしたら任務に大きな支障が出ることは容易に想像できます。でも、それは学校や職場とて同じことです。この作品を見て、自分も少しでもそんなふうに人間力をつけたいと思っただけでも、十分な気づきになるのではないでしょうか。

「ものづくりには失敗することにかける金と労力が必要なんだよ」

『宇宙兄弟』はとても学びの多い作品ですが、その中でも私が最も心に残ったのはこの言葉です。NASAでのトレーニングの一環として、決められた予算で材料を調達してローバー(探査車)を作製するシーンがあるんですが、材料を一式そろえようというときにムッタは「ものづくりには失敗することにかける金と労力が必要なんだよ」と言います。つまり、失敗を前提としていなければらならないのでワンセットでは足りない、安くてもいいから予備を準備したいと提案するんです。何気ないシーンですがしびれました。

私はすぐに元プロ棋士の「ひふみん」こと加藤一二三さんを思い出しました。ひふみんの功績のひとつに「史上最多敗北数」というものがあるんです。つまり、ひふみんは、いっぱい戦っていっぱい負けた、これが揺るぎない実績となっているんですね。負けをおそれていては勝てませんし、負けたくないなら戦わないこと以外にありません。たくさん負けたのは、たくさん戦った誇るべき証しです。

アプリやソフトウエアはバグが発生するのが当たり前という考え方が浸透しているのはとてもよいことだと思います。日本人は完璧主義で、失敗にあまり寛容ではないともいわれますが、こんなふうに、失敗こそ必要なステップだという共通認識が広まったら、日本においてもっと創造的なものづくりが活性化していくような気がしています。

さて、皆さんはどのシーンがお気に入りだったでしょうか。ぜひ自分の推しポイントを見つけてみてくださいね。