はじめに
「もつ」というと、当然ながら「持つ」と書きますよね。「荷物を持つ」とか「お金を持っている」などと使います。でも、「もって」という形だと漢字で書くものばかりではなくなります。「身をもって知りました」とか、「これをもって終了といたします」のような場合には「もって」とひらがなにします。
なぜなら、「身をもって」や「これをもって」の漢字は「持って」ではなく「以て」になるためです。でも、常用漢字表においては「以」には「イ」という読みしかありません。そのため「もって」とひらがなで書くことになります。
「秋は行楽にもってこいだ」というような場合はどうでしょうか。漢字で書けそうに思いますが、この「もってこい」は「持ってきなさい」という意味ではなく、「ぴったりだ」という意味になるのでひらがなで書きます。
ちょっと困るのが「もっていく」という場合です。「所持して運ぶ」という意味なら「持っていく」ですが、「目標に到達するようにする」という意味で用いられることもありますよね。そのあたり、判断が難しいところです。
このように、簡単なようで迷いがちな「持って」と「もって」ですが、今回はその使い分けについてまとめてみたいと思います。
「持って」の意味と使い方
「持って」は、四段活用動詞「持つ」の連用形で、「持ちて」の促音便です。「持って」は、「手で持つ」「所有する」「心に抱く」という意味のほか、さまざまな意味で用いられます。具体的な「モノ」ばかりでなく、性質や感情も「持つ」を用います。
念のため、代表的な使い方を用例で確認しておきたいと思います。
(手で持つ)
・両手に荷物を持っています。
・ボールを持って投げてください。
(持ち歩く)
・雨具を持っていません。
・手土産を持っていこう。
(所有する)
・自分の店を持っています。
・教員免許を持っている。
(性質や特徴を有している)
・優秀な頭脳を持っている。
・この決断は大きな意味を持つ。
(考えや感情を心に抱く)
・もっと自信を持ってください。
・政治に関心を持っています。
(その他)
・食事代は先輩が持ってくれた。(負担する)
・新入生を持ってくれないか。(担当する)
・会合を持って話し合おう。(会合を開く)
・僕は持っている男だ。(運気が強い)
などなど
「もって(以て)」の意味と使い方
一方、ひらがなの「もって」は、何かを手に持ったり所有したりしない場合に使います。つまり、「もって」といいながら、特に何も持っていない場合ですね。これは「持って」の漢字の持つ意味が薄れた形式的用法なので「もって」とひらがなにします。
ひらがなの「もって」は「~によって」とか「~を区切りとして」などの意味になります。例えば、「書面をもって通知します」とか「今月をもって閉店します」というような場合の「もって」です。
また、前の語の意味を強調することもあります。「誠にもって残念です」とか「今もって解明されていない」というように用いますが、これらもやはりひらがなにしてます。
漢字で書けば「以て」になりますが、常用漢字表では「以」は「イ」としか読ませていないためひらがなにします。
用例で確認してみることにしましょう。
(~によって)
・書面をもって通知します。
・身をもって感じました。
・好意をもって受け止められた。
・現代の技術をもってすれば可能です。
(~を理由にして)
・何をもって正義とするのか。
・老齢をもって引退いたします。
・おかげさまをもちまして10周年を迎えました。
(~を区切りとして)
・これをもって終了といたします。
・今月をもって閉店いたします。
・本日をもちまして二十歳となりました。
(なおかつ)
・美人でもって秀才だ。
・安価でもって味もいい。
・軽量でもって性能がすぐれている。
(前の語を強調する)
・誠にもって残念です。
・今もって解明されていない。
・それでもって今に至ります。
・全くもって納得できません。
「持っていく」か、「もっていく」なのか
持っていく=携帯して移動する
「持っていく」は、所持したり携帯したりして移動することですよね。「旅行に雨具を持っていこう」とか、「祖母におみやげを持っていこう」などと用います。
もっていく=目標や理想に到達するようにする
ただ、「目標や理想に到達するようにする」という意味で用いられることもあります。例えば、「試合当日にベストコンディションになるようにもっていく」とか、「会社の業績が上向きになるようにもっていきたい」という場合です。
後者の場合、所持して運ぶという意味合いから離れてしまっているので「もっていく」も好まれます。ただ、どの表記辞書にもそのことについての言及はありませんでしたので、これは表記の工夫の範ちゅうになるのではないかと思います。そこは自己判断で、語感に合うほうを用いてみてくださいね。
(持っていく)
・旅行に雨具を持っていこう。
・祖母におみやげを持っていく。
(もっていく)
・試合当日にベストコンディションになるようにもっていく。
・会社の業績が上向きになるようにもっていきたい。
覚えておきたい「もって」「持って」の成句・慣用句
ここからは、決まった言い方で用いられている「持って」と「もって」について確かめていきたいと思います。
「もってのほか」はどういう意味?
もってのほか=とんでもないこと
「もってのほか」は「とんでもないこと」という意味で、許されないこと、常識をわきまえないような行為に対して用います。
これはもともとは「以ての外」ですので、「もってのほか」と全体をひらがなにするか、「もっての外」と表記します。
(「もってのほか」の用例)
・入社初日に遅刻するなどもってのほかです。
・仕事中にスマホゲームをするなどもってのほかだ。
・外見をからかうのは人としてもってのほかです。
「もってこい」とはどういう意味?
もってこい=うってつけであること
「もってこい」とは「最もふさわしい」とか「うってつけである」という意味で用いますが、これもひらがなで書きます。漢字にすると「持ってきなさい」という意味になってしまいますので、区別して「もってこい」とひらがなにします。
・行楽にはもってこいの季節になりました。
・この珍味は酒のさかなにもってこいだ。
・この仕事は几帳面な彼にもってこいですね。
「持って回った」とはどういう意味?
持って回った=わざと遠回しな言い方ややり方をすること
「持って回った」とは「わざと遠回しな言い方ややり方をすること」です。この意味の場合には必ず「持って回った」という形で用います。
この場合は、何かを「持ち回る」ことではありませんが、「持って回った」と漢字で表記します。慣用句として覚えておきたい表現です。
・彼の持って回った言い方が気に入らない。
・持って回った言い方をされても理解できない。
・持って回ったやり方では共感は得られませんよ。
まとめ
・「手で持つ」「所有する」「心に抱く」などの「持って」は漢字で書きます。
・「~によって」「~を区切りとして」という場合の「もって」はひらがなにします。
・「持っていく」か「もっていく」かは文脈によって使い分けます。
・「もってのほか」とは「とんでもないこと」という意味です。
・「もってこい」は「うってつけであること」という意味です。
・「持って回った」とは「わざと遠回しな言い方ややり方をすること」という意味です。
今回は「持って」と「もって」の使い分けについてまとめてみました。最後まで読んでくださってありがとうございました。



