「おこなう」は「行う/行なう/おこなう」のどれ? なぜひらがなが好まれる?

表記の決まりごと

はじめに

「おこなう」というときには、当然、「行う」と書くものと認識している方がほとんどではないでしょうか。なぜなら、学校教育においては「おこなう」は「行う」に統一して指導しているからです。ところが、国の方針としては、「行う」を標準としながらも、「行なう」も許容しているんです。びっくりですよね。

それに、最近は「おこなう」や「おこなって」とひらがなになっている表記を多く目にするようになりました。どうしてひらがなにしているのか、なぜ「行」を用いないのか気になりますよね。その理由は「行う」の文法上の活用と関係しているんです。

今回は、「おこなう」や「おこなって」の表記についてまとめていきたいと思います。

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「行う」でも「行なう」でもいい理由

前述したように、学校においては「おこなう」は「行う」と書いて、「う」だけを送るように学びました。ところが、内閣訓令第1号「送り仮名の付け方」では、「許容」として「行なう」を示しているんですね。ですから、「行う」でも「行なう」でもどちらでも間違いではありません。

内閣訓令第1号「送り仮名の付け方」より

次の語は,(  )の中に示すように,活用語尾の前の音節から送ることができる。

表す(表わす) 著す(著わす) 現れる(現われる) 行う(行なう) 断る(断わる) 賜る(賜わる)

「行なう」と書いていいなんて知らなかった。

「行う」の活用を確かめてみよう

では、どうしてわざわざ「行なう」という表記が特別扱いされているのかというと、それは活用によっては誤読が生じてしまうためなんです。

「行う」の活用を確かめてみましょう。

「行う」の活用
未然
・行わない
・行おう
連用
・行います
・行った/行って
終止
・行う
連体
・行うとき
仮定
・行えば
命令
・行え

注目すべきは「連用形」です。「行う」が助詞の「た」や「て」に連なるときは、「行った」や「行って」のように、活用語尾が小さい「つ」に変化してしまいます。これを「促音便(そくおんびん)」といいます。

そうすると、困ったことに、「行った」は「いった」なのか「おこなった」なのか、「行って」は「いって」なのか「おこなって」なのか、どっちなのかわからなくなってしまう現象が生じます。

そのために、「いって」なら「行って」、「おこなって」なら「行なって」というように、表記を使い分けてもいいことになっているんですね。ただし、これはあくまで「許容」であって、必ずそうしなさいということではありません。

目的語が省略されていると、「あなたが行ってください」のように、「いって」か「おこなって」かわからないことがあるよね。

表記辞書の立場を確かめてみた

では、各表記辞書ではどう扱っているのかというと、公用文をはじめとして、新聞表記も議事録表記も、そしてNHK表記でも、基本的に「おこなう」は「行う」と書くように示しています。それが統一して運用されているかどうかまでは言及できませんが、少なくても各表記辞書にはそのように示されています。

その場合、「行って」が「いって」とも「おこなって」とも読めてしまう問題については、文脈で判断して読んでもらうということになります。確かに、ほとんど文脈を追っていけば読み方で迷うことは少ないかもしれません。

原則としては学校で習った使い方でいいなら安心ね。

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どうして「おこなう」が多用されているのか

でも、ネット上の記事を読んでいると、「おこなう」とひらがなになっていることも多いですよね。これも、「行って」と書くと、「いって」なのか「おこなって」なのか判別できないために、あえてひらがなを採用しているものと思われます。

「行なって」が公式に認められているのにもかかわらず、ひらがなが好まれるのは、学校教育との関連があるのではないかと思います。小学生のときに、「“おこなう”は“行う”ですよ、“行なう”ではありませんよ」と指導されてきたわけですから、下手に「行なう」にしたら「間違えてるじゃん!」と思われてしまうかもしれないと心配になりますしね。

それに、昨今は、どこかの新聞社に所属するとか、出版社に勤務するとか、そういった立場以外の人が、自由にSNSやブログやnoteなどで文章を書いて発信することがとても多くなりました。かつては所属する団体の表記の方針にのっとって文章を書いていたものが、近年は特定の表記の原則によらず、自分で自由に表記を選んで発信することが可能になったんですね。こうした事情も「おこなう」のひらがな表記が広がっている一因ではないかと思います。

確かに、今は個人発信の文章のほうが多いかもしれないね。

もちろん、ひらがな表記は間違いではありませんし、むしろ読み手に配慮した表記です。これからの時代は正しさよりも、やさしさや誤解のない表記が求められるのかもしれません。

これらのことを勘案して、表記に自由度があるお立場の方であれば、ご自身の語感に合うものを選んでみてください。ただし、公務員さんであるとか報道関係の方であれば、もちろん、それぞれ所属する団体の方針に従うということになりますね。

おわりに

「行う」と同じ理由で、特例として活用語尾以外の送りがなを送ってもいいものに「断る」があります。これもやはり、「断った」というと、「たった」なのか「ことわった」なのかわからなくなってしまうので、「断わった」と書いていいことにしているんですね。

・行った(いった? おこなった?)
・断った(たった? ことわった?)

ひがらな表記は読み手に配慮したやさしい表記ですが、あまりにひらがなが多いとかえって読みにくくなってしまうこともあります。文章の内容にもよると思いますので、「行う/行なう/おこなう」「断る/断わる/ことわる」については、そのあたりも考慮しながら、ふさわしい表記を選んでみてください。

今回は、「おこなう」の表記についてまとめてみました。最後まで読んでくださってありがとうございました。

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